新・オーディオ入門 1
『オーディオはよくわからないけど良い音で音楽を聴きたい』、『オーディオ歴は長いけどこれは知らなかった!』というお話を聴くことがあります。 新オーディオ入門はオーディオの基礎についてエンジニアの視点から初心者の方にも判りやすく解説していくものです。 タイトルは私が10代の時に愛読した『オーディオ入門』から拝借しました。 私がオーディオに携わることになったきっかけの本です。 とても判りやすく説明されていて、手元に置いて辞書のように使っていました。 『新・オーディオ入門』はその現代版となれるよう書き進めたいと思います。
セパレートとはプリアンプとパワーアンプ(またはメインアンプと呼ばれることも)で1対になっているアンプです。
プリメインはプリメインアンプやインテグレーテッドアンプと呼ばれており、プリアンプとメインアンプが一体になったものです。
70年代初頭まではプリメインアンプはなく、プリアンプを手元に置き、パワーアンプはスピーカーの傍に設置するのが一般的で現在でも最も合理的なセッティングです。
これを一体化しセッティングを簡略化することで一般家庭への普及を狙ったのがプリメインです。
セパレートとプリメインに関しては以下のようなことが言われています。
● 将来の発展性を考えるならセパレート
● 接点が少なくなるのでプリメインが有利
● プリメインは置き場所が狭くてもOK
● セパレートは割高。コスパ悪い
● プリメインは入門用
この中で明らかにおかしいのは『接点が少なくなるのでプリメインが有利』です。
現在当社ではプリメインとセパレート両方を生産しています。
セパレートを半田付けで接続してテストしましたがピンケーブルで接続した場合と大差ありません。
現代のRCAジャックは接触抵抗が少なく、過去のものとは比べようがありません。
また、プリメインの中には当社のRaicho7intのように高価で高品位なものもありますので
『プリメインは入門用。』というのも疑問です。
趣味としてのオーディオを楽しむのであればセパレートをお勧めしますし、
難しいことを考えずに音楽だけを楽しむのであればプリメインをお勧めします。
セパレートはケーブルやインシュレーターを使ってお好みの音に調整する楽しみもありますし
ハイレゾに対応したグラフィックイコライザーRaicho7geqも発売されましたので
セパレートのオーディオ的な楽しみはさらに広がっています。
最近ではパワードスピーカーが使用されることも多いのですが、
構成を考えると、パワードスピーカーは究極のセパレートなのかもしれません。
パワードスピーカー s1
プリアンプとはパワーアンプ(またはメインアンプと呼ばれることも)の前段に置かれるアンプで、プリは『…の前部にある』を意味します。
音量調整や音源選択をプリアンプが担い、スピーカーをドライブするための電力増幅をパワーアンプが担当します。
1980年代CDが発売された頃、ラインアンプが出現しました。
それまでのプリアンプにはレコード再生のためのフォノイコライザー回路が必ず搭載されていました。
CD時代になりレコード一気に顧みられることがなくなり、不要となったフォノイコライザー回路を省略したプリアンプが数多く発表され、ラインアンプと呼ばれました。
『ライン』とは、ホームオーディオの基準信号-10dBVの『ライン入力レベル信号』に由来します。(他にもマイクレベルや楽器やPA機器もそれぞれ基準信号レベルがあります)
その当時は、トーンコントロール、バランスコントロール、ラウドネスコントロール等のアクセサリー回路も省略され、
挙句の果てには、ボリューム付のCDプレーヤーをパワーアンプに直結するプリアンプ不要論も。
この頃『シンプル・イズ・ベスト』という言葉を良く聴きました。
その後、プリアンプによるインピーダンスマッチングの重要性が理解されるようになりました。
プリアンプを使用しないと、多少クリアな音にはなりますが、迫力がなく実在感の乏しい音質になってしまう。
これはプリアンプに搭載されているバッファ回路(緩衝増幅回路)によるインピーダンスマッチングの効果です。
各コンポーネント間のインピーダンスマッチングを適切に行うことで音楽信号が正確に伝達されるメリットの方がシンプル・イズ・ベストよりも遥かに重要という認識に変わっていきました。
現在、レコードブームによって、再びプリアンプ全盛時代に。
更に、HDMIや光ケーブル、USDによるパソコンからの入力、Bluetoothと音源が多様化しています。
ムジカではカスタマイズによって様々な入力に対応するプリアンプRaicho7priを発売しました。
今はデジタルオーディオは過渡期です。今後新たな音源の出現もあるでしょう。
Raicho7priは入力回路をユニット化し、将来の音源機器にも対応できるように設計されています。
いつかは真空管アンプを所有してみたいと思われる方も多いのではないでしょうか。
ガラスの球体の中の明るく光るフィラメントは眺めているだけでもよいものです。
半導体アンプより真空管アンプの方が高音質と思われている方もあるかと思います。
真空管アンプを所有することはハコスカやライカM3を所有することと同じです。
最新モデルよりずば抜けて性能が良いわけでもありませんし、メンテナンスも大変です。
オーディオは趣味の世界です。ある限られた用途や、レトロなデザインへのあこがれによって成立するものなのです。
しかし、最新のオーディオアンプやギターアンプにも真空管が使用されている例はあります。
ムジカのプリアンプRaicho7priもそのひとつ。
真空管を数ある増幅素子のひとつとして扱っており、
真空管、トランジスター、FET、IGBTは同列で、それぞれの回路に最適な適切な増幅素子を選択しています。
Raicho7priはハイレゾ音源にも対応したプリアンプですが、
搭載されている12AU7による真空管バッファ回路は100KHzまでフラットな特性でこの高域特性は半導体を上回ります。
また、微小信号に対する反応の良さも真空管ならではです。
反面、真空管アンプはパワーアンプには向きません。
半導体アンプと同様のクオリティの真空管アンプを製作しようとすると10倍以上のコストがかかります。
ギターアンプにも真空管が使用されることが多いのですが、
これは真空管増幅回路の歪成分がギターの音色に合うためで、これも適切に選択された増幅素子と言えるでしょう。
また、真空管アンプは暖かい音だという方がみえます。真空管アンプに暖かい音のものが多いのは事実です。
しかし、それは『真空管アンプっぽい音の真空管アンプ』を設計しているからなのです。
当社ではOEM(相手先ブランドによる生産)を行いますが、先方から『真空管っぽい音』というリクエストをいただくことがあります。
それを製作する場合、そのほとんどを真空管を使用せずに半導体で実現しています。半導体でも真空管っぽい音は出せますし、
真空管アンプでもクールでハイスピードな現代の半導体アンプのような音にすることは可能なのです。
あまりメジャーではありませんが、パッシブアッテネーターというコンポーネントがあります。
ムジカではCuculo-att2が相当します。
機能はプリアンプとほぼ同等ですが、増幅回路が搭載されてなく、電源を必要としません。価格も割安です。
そんな良いものがあるなら・・・と思われるかもしれませんが、
パッシブアッテネーターは『ある条件の下でプリアンプ以上の性能を発揮する』コンポーネントなのです。
ただし、『ある条件』は厳しく、多くの場合最高の性能を発揮できません。
パッシブアッテネーターは『はじめにパッシブアッテネーターがあった。パッシブアッテネーターこそオーディオであった。』というような
オーディオシステムにおいてはびっくりするような素晴らしい性能を発揮します。
プリアンプが古くなったから安価なパッシブアッテネーターに変えようということではいけません。
パッシブアッテネーターを使用するからには、ラックでの置き場所やケーブルの種類や長さ、パワーアンプとの相性等を十分に考慮しなければなりません。
そして、これらが最適化されたとき、超低歪で、透明度の高い音になります。つまり、パッシブアッテネーターはオーディオ上級者用のアイテムなのです。
パッシブアッテネーターは入力インピーダンスは低めで、出力インピーダンスは高めです。
これではピンケーブルの長さの影響が大きくなりますので設置場所を工夫しケーブルを最短にしなければなりません。1m以下、できれば50cm程度が理想です。
これ以上長くなると高域特性が悪化し、ハイレゾ音源の超高域部分が消えてなくなってしまうことも。
パワーアンプは入力インピーダンスの高いものを選ぶ必要があります。
間違っても600オームの業務用のパワーアンプと組み合わせてはいけません。音量が1/4程になってしまう可能性すらあります。
設置場所も重要です。ラックのパワーアンプのすぐ上の段はパワーアンプからのノイズを受けやすく注意が必要。
パソコンや置くだけのスマホの充電器・ワイヤレスチャージャーの傍は高周波ノイズを発生しており、音楽信号に混入する可能性が高くなります。
また、ラックが金属製の場合、ラック自身のアースも重要です。
1960年代にステレオが普及するまで、オーディオはモノラルしかなく、スピーカーを1本だけ設置し再生していました。
それでも従来の蓄音機と比較すると十分に高音質で音楽を楽しむことができました。この時のパワーアンプは1チャンネルのパワーアンプです。
その後、ステレオレコードが発売されるとモノラルのオーディオセットを2セット使用してステレオ再生することが盛んに試みられました。
これがモノラルアンプのステレオ使用の始まりです。ステレオアンプがないからしかたなく従来の1チャンネルのアンプを使用したに過ぎません。
その後、ステレオアンプ全盛になるのですが、あるとき改めてモノラルアンプを使用してみるとステレオアンプにはない良さが発見されました。
≪豊かで緻密な音場≫
ステレオアンプには左右2チャンネルの増幅回路がありますが、多くの場合電源回路は共通です。
右に置かれた楽器が再生されるとき、右チャンネルの増幅回路が使われますが左右のチャンネルに共通である電源回路を介して左チャンネルにも影響を与えます。
その結果、左右の音が混合するような現象が発生しステレオ感が損なわれることがあります。モノラルアンプは左右のチャンネルが電源回路も含めて独立しているのでこういった不具合は発生しません。
≪スピーカーケーブルが最短に≫
モノラルパワーアンプはスピーカーの傍らに設置することが可能です。スピーカーとを接続するケーブルを50cm以下にすることも可能です。
スピーカーケーブルはすべてのオーディオケーブルの中で最も影響の大きいケーブルです。最短のスピーカーケーブルは高域特性が広がり、低域のダンピングが向上し、ケーブルによるロスが減少します。
ムジカでは早くからモノラルアンプのメリットに着目し、3種のモノラルアンプ(Cuculo-mono2、Airone-mono、mono64s)と
1種のモノラルアンプ化が可能なステレオアンプRaicho7powを発売しています。
最近注目のコンポーネントにグラフィックイコライザーがあります。
ムジカでは2023年9月に発売されたRaicho7geqが相当します。
グラフィックイコライザーとは特定の音域の音量を調整するものです。
グラフィックイコライザーを簡易化したものがトーンコントロールで、嘗てのプリメインアンプには必ず低域と高域の2つの調整ツマミがついていました。
グラフィックイコライザーはトーンコントロールでは調整しきれない微妙な調整をすることができます。
例えば、小型スピーカーでは40Hz以下の超低域が不足する事が多いのですが、こういった特定の帯域だけを増強させる事が可能です。
また、フローリングの部屋で音楽を再生すると床からの反射によって中域が盛り上がって聴こえる事があります。こういった時に中域を抑えてバランスをとることもできます。
グラフィックイコライザーは1970年代後半から80年代にかけて流行し、多くのモデルが発売されました。
しかし、90年代には見かけなくなってしまいます。
これには2つの理由が考えられます。
ひとつは、『プリアンプとラインアンプ』でも書きましたが、CDの発売による『シンプル・イズ・ベスト』の風潮が向かい風になりました。
当時のグラフィックイコライザーは歪やノイズは多く、周波数特性は悪く、使用したときのメリットよりもデメリットが目立ってしまいました。
現在では増幅素子のノイズレートは下がり、抵抗やコンデンサーといった電子パーツも小型高性能化しハイレゾ音源にも対応できるようなものとなりました。
見かけなくなったもうひとつの理由は、多素子化が進み(中には33素子のものも)一般ユーザーでは調整が難しくなってしまったからでしょう。
グラフィックイコライザーを調整するためには、現在出ている音の周波数を理解する必要があります。
5素子程度のグラフィックイコライザーでしたら、低域、中低域、中域、中高域、高域の調整ですので簡単ですが、細かな調整ができません。
33素子にもなるとかなりの熟練が必要で測定器を使用しないと調整はたいへんです。
実用的なのは10~15素子のグラフィックイコライザーです。耳だけでの設定も可能で、かなり細かく調整することができます。
レコードの溝に刻まれた僅か数ミクロンの凹凸を電気信号に変換するレコードプレーヤーはかなりナーバスなコンポーネントです。
ここ数年のレコードブームによって多くのレコードプレーヤーが発売されていますが、レコードプレーヤーはモデルによって大きな性能差があります。
質の悪いプレーヤーでは音質に問題があるだけでなく、針が隣の溝にジャンプする通称『音飛び』も頻繁に発生します。
かつてはピックアップと呼ばれていたカートリッジとトーンアームの相性も重要です。
カートリッジ(針)の重さ(自重)によっては使用することができないトーンアームもあります。
レコードの仕組みは100年前とそれほど変わっていません。ある意味100年前の技術ですので、現代のデジタル機器より多くのメンテナンスが必要になることを覚悟しなくてはなりません。
そのためレコードプレーヤーはアナログ再生に精通した販売店で購入することをお勧めします。
また、レコードプレーヤーはここ20年程で最も進化したオーディオ機器かもしれません。
レコード全盛期の1980年代に発売された重量級のプレーヤーを神聖視するむきもありますが、
当時のプレーヤーは自身の質量を増やして振動を止める方法がとられていました。
現代のプレーヤーは材料そのものに軽くても振動しない新素材が使用されており、当時のプレーヤーよりも振動が少なく、ハウリングにも強くなっています。
そのため現在のプレーヤーは驚くほど軽量です。
機械加工の精度も当時よりかなり向上しており、そしてスタイリッシュ。
ムジカ試聴室には英国rega社のプレーヤーが常設されており、往年の超高級レコードプレーヤーをお客様が持ち込んで比較試聴されることもありますが、その音質は比べるまでもありません。
ワイドレンジでハイスピードな現代のレコードプレーヤーで昔よく聴いた曲を再生すると、これほどまでに沢山の音が入っていたのかと驚かされます。
意外かもしれませんが、それ相応のレコードプレーヤーを使用した場合、その再生周波数は10Hz~50KHzと言われています。
CDは20Hz~20KHzですので、レコードの方が広帯域で、それはサンプリング96KHzのハイレゾ音源に匹敵します。
CDのプレス数がアナログレコードを下回ったというニュースも聴かれるようになりました。
デジタル音源はサブスクやダウンロードに置き換わろうをしています。
とはいえ、これまでに購入したCDを考えると・・・。
今や純粋なCDプレーヤーは種類も少なく、割高でおすすめできません。
ブルーレイプレーヤーやDVDプレーヤーでCDを再生することをお勧めします。
CDは1970年代に開発された技術。周波数特性は20Hz~20KHz、分解能は16bitです。
その当時の技術ではこれがやっとだったのです。それでもノイズの少なさや取り扱いの簡単さからCDは一気に普及しました。
その後、DVDは~50KHzになり、ブルーレイでは~100KHzと広帯域化していきました。
もちろんこれらのプレーヤーでもCDは再生可能です。
このように進化した再生機があるのに、あえてCDプレーヤーを使用する理由がありません。
これらのデジタルメディアプレーヤーは年々進歩しています。3年も経つと新しい規格が発表され、対応したチップ(中に使用されているIC)が使われるようになります。
そのためデジタルメディアの宿命として常に新しいものへと更新していく必要があります。
今や、デジタルメディアプレーヤーはパソコンやスマホと同様一定期間使用したら交換するものと考えた方が良いでしょう。
10年間使用するつもりで10万円のCDプレーヤーを購入するのであれば、3万円のブルーレイプレーヤーを3年ごとに最新のプレーヤーに買い替えることをお勧めします。
また、CD盤には寿命があると言われています。
当初、寿命は25年と言われていましたが、手元にある1982年のCD発売時の盤は現在でも再生することができます。
しかし、CD盤の素材がアクリルであることを考えるといずれ再生できなくなる日がやってくるのは間違いなさそうです。
そのため、パソコンでリッピングして(パソコンにデーターとして取り込んで)パソコンで再生する方が多くなってきています。
リッピング時に曲名やアルバム名が自動的に付加され整理できる無料のソフトもあります。私も使用していますがとても便利です。
CDプレーヤー購入の前に検討してみるのもよいでしょう。
D/Aコンバーターはデジタル信号をオーディオアンプで増幅することが可能なアナログ信号に変換するものです。
一般的なCDプレーヤーには内蔵されていますが、オーディオにおいては、より高品位に変換するために独立したコンポーネントになっているものをとくに『D/Aコンバーター』または『DAC』と呼びます。
DACにはいくつかの種類がありそれぞれの互換性はありません。代表的なDACをご紹介します。
≪CDプレーヤー用DAC≫
CD発売当初から現在まで使用されています。入力が多彩で、ホームオーディオ用には、同軸(アンバランス)、TOSリンク(光)。
業務用には同軸(バランス)、STリンク(光)があります。CD規格のサンプリング周波数44.1KHzが標準ですが、ハイレゾ対応の96KHzや192KHzのモデルもあります。
≪USB-DAC≫
パソコンとオーディオ機器を接続するPCオーディオ用に開発されたもので入力はUSBです。サンプリング周波数96KHzや192KHzのモデルが一般的です。
最近ではタブレットやスマホから接続するタイプもあります。こういったタイプは従来のパソコン用のものとは互換性がない場合があります。
≪HDMI-DAC≫
ブルーレイプレーヤーをオーディオ機器に接続するため使用されていますが、現在ではパソコンにも標準搭載されています。
音声と映像を1本のケーブルで伝送可能。HDMI規格は毎年のように更新されており、最も注目すべきDACです。ムジカではCuculo-daが相当します。
≪Bluetooth≫
Bluetoothも広義ではD/Aコンバーターです。スマホとオーディオ機器を接続するために使われますが、離れた場所にあるパソコンを接続することもあります。
Bluetooth規格には高音質なオーディオ用のVer.4.Xとイヤホン用にバッテリーの消費を少なくし音質を犠牲にしたVer.5.Xがあります。
これら4種のDACはカスタマイズでプリアンプ Raicho7priに搭載可能です。
近年ではパソコンも立派なオーディオコンポーネントのひとつとなりました。
MP3やWAV、FLACといった音楽ファイルの再生はもちろん、MP4等の映像ファイルの再生や、
YouTube、インターネットラジオ、音楽配信サブスクの再生も。
若い方の中には、CDやレコードは使用せず、パソコンだけで音源が完結してしまう方もお見えのようです。
オーディオコンポーネントとしての『パソコン』を考えたとき、一般的なパソコンの選択とは少し異なるものになります。まず、最新のパソコンを音楽再生だけに使用するとあきらかにオーバースペック。
音楽再生専用パソコンには処理速度が高速であることよりも静音であることが求められます。
お勧めはノートパソコン。ノートパソコンはデスクトップ型に比べると処理速度は若干遅いのですが、バッテリーを長持ちさせるために電源の消費電力が抑えられた設計になっています。
消費電力が抑えられるでパソコンの発熱が少なくなり、放熱のための内蔵のファンは回転音の小さな小型ファンでもOK。静音化に貢献します。
また、消費電力が少なく、クロック周波数が低いノートパソコンはデスクトップ型より本体から空中に漏れる電磁波ノイズも少なく、プリアンプやパワーアンプといったオーディオ機器にノイズが混入しにくくなります。
記憶媒体も重要です。音楽ファイルだけを再生するのであれば、その容量は意外と少なくても良く、ハイレゾ音源であっても1~2Tの記憶媒体があれば十分です。
1T程度の記憶媒体であれば、『カラカラ』と音がうるさいハードディスクではなく、完全無音のSSDやUSBメモリーが使用可能です。
最近ではキーボード部を取り外すとタブレットになるようなタッチパネル型のノートパソコンもあります。これならばPCオーディオという大げさなものではなく、『ちょっと大きめのリモコン』感覚で使用することも。
現在は音質面でパソコンに一歩及びませんが、アンドロイド等のOSを使用した音楽・映像再生専用の『TV BOX』も安価に発売されています。
数年もすれば、こういった簡易再生機が洗練され、高音質化し、パソコンに代わる音源機器になるでしょう。
スピーカーには多くのモデルがありますが、その見た目から凡そ3種に分類することができます。
≪ブックシェルフ型≫
嘗ては本棚で本と並べて使用するサイズだっということですが、かなり大きなものもブックシェルフ型に分類されます。
側面と天板、底板の4面が綺麗に仕上げられておりどの向きにでも設置できるスピーカーですが、現在では本棚に並べられることは稀です。
広い部屋でなくてもセッティングがし易く、安価なモデルも多いので初心者の方にもおすすめです。
反面、低音の再生は十分とは言えず、セッティングでカバーしたり、トーンコントロールやグラフィックイコライザーを使用する必要があります。
専らスピーカースタンドの上に設置して使用しますが、スピーカースタンドのコストはバカになりません。
≪フロアー型≫
床に直接設置するタイプのスピーカーです。多くは大型で重量級で、低音の再生も十分です。
しかし、取扱いが難しいスピーカーでもあります。広い部屋でないと低域がブーミーになったり、音場があいまいになったりします。
一般的には部屋のスピーカーが置かれている面が、スピーカーがの横幅の5倍以上あることが望ましく、
横幅70cmのスピーカーであれば、12畳以上のお部屋が理想です。
また、高価であることが多く、発売されているモデルも少なく選択の幅が狭いです。
≪トールボーイ型≫
現在主流になりつつある形状です。
フロアー型の一種とも言えますが、横幅が狭く、高さがあるスピーカーです。
モニター画面横に設置し映画やMVを再生する場合にも適しています。
スピーカースタンドを使用したブックシェルフスピーカーと同じ位の設置面積で大きなエンクロージャーを確保することができますので効率的です。
横幅が短いため位相の乱れが少なく、音場を綺麗に再生することができます。
スピーカーのエンクロージャー(スピーカーボックス)には多くの形式があります。
平面バッフル、後面開放型、バックロードホーン等々。
これらエンクロージャーの形式は低音域を担当するウーハーに対する形式を指し、いかに低音を効率的に再生するかという工夫が様々な形式を生み出しました。
しかし、現在市販されているスピーカーの大半はバスレフ型であり、次いで2番目に多いのが密閉型です。
この2種でスピーカー全体の9割以上を占めます。また、トロンボーンのような形状のホーンスピーカという形式もあります。
≪密閉型≫
ウーハーの背面を密閉された箱で囲い背面からの音を完全に遮蔽した形式です。
スピーカーユニットの個性が引き立つ素直な音質ですが、十分な低域を再生するためには大容積で丈夫なエンクロージャーが必要です。
≪バスレフ型≫
ウーハーの背面から出る音をバスレフポートを介して外に向かって出すことで、低域を補完するよう工夫した形式です。
小形のエンクロージャーでも十分な低域を再生することが可能です。
ただし、ブーミーで癖のある低域になることも。バスレフポートが背面にあるタイプのスピーカーは壁との距離を50cm以上はとる必要があります。
≪ホーンスピーカー≫
金管楽器のようにスピーカーユニットから出る音を音道に導き、音道(スロート)の太さを徐々に広げていくような形式のスピーカーをホーンスピーカーといいます。
ホーンスピーカーは高能率で小出力のアンプでも再生可能です。音離れが良く、ハイスピードな音が魅力ですが、再生帯域は狭くなります。重低音を再生するためには巨大なホーンが必要で、
50Hzまで再生するのであれば計算上は2.5m角の開口部を持つ巨大なホーンが必要になり現実的ではありません。そのため中域や高域用のスピーカーとして用いられることが多いです。
エンクロージャー(スピーカーボックス)にスピーカーユニットが取り付けられて完成品の状態のスピーカーを『スピーカーシステム』といいます。
スピーカーシステムにはスピーカーユニットが1つだけのタイプと、いくつかのスピーカーユニットが使われているタイプがあります。
1つだけのタイプは、その1つのスピーカーユニットだけで低域から高域まで全ての帯域を再生します。
これをフルレンジスピーカーといいます。
2つの帯域のスピーカーユニットが使われているタイプは低域を担当するウーハーと高域を担当するツィーターからなり、
2WAYスピーカーと呼ばれます。同様に3つの帯域のスピーカーユニットが使われているタイプは低域を担当するウーハーと中域を担当するスコーカー、
高域を担当するツィーターからなり、3WAYスピーカーと呼ばれます。
嘗ては4WAY、5WAYのスピーカーもありましたが、
現在ではスピーカーユニットの進歩によって、ひとつのスピーカーユニットで再生することができる帯域が広くなりましたので2WAYスピーカーが主流です。
ここで注意しなくていけないことは『2つの帯域のスピーカーユニットが使われているタイプが2WAYスピーカー』であり、
『2つのスピーカーユニット』ではないという点です。2ケのウーハーと1ケのツィーターが使われている場合、スピーカーユニットの数は合計3ケですが、
分割している帯域は2つですので2WAYスピーカーに分類されます。また、最近ではハイレゾ音源に対応するスピーカーシステムも増えてきました。
従来のスピーカーシステムの再生帯域は人が聴こえる20Hz~20KHzを基準として設計されていましたが、最新のハイレゾ音源ではその上限は100KHzにも及びます。
『ハイレゾ対応』と銘打ったスピーカーシステムは20KHz以上を専門に再生するスーパーツィーターを付加し、ウーハー(低域)、ツィーター(高域)、スーパーツィーター(超高域)の3WAYとしたものもあります。
スーパーツィーターは、従来のスピーカーシステムに外付けするタイプも発売されています。
ムジカではVer(ウェール)やVer Duo(ウェール・デュオ)がこれに相当します。
カタログの周波数特性が50Hz~20KHzというブックシェルフスピーカーでオーケストラやビックバンドを再生すると低域が少し物足りないと感じることがあります。
『50Hzを基音とする楽器はわずかしかないのにどうして?』と思われるかもしれません。
スピーカーシステムのカタログに掲載されている周波数特性は中域に対して音圧が-10dB(約1/3の音量)になったポイントを下限周波数として表記します。
つまり、50Hz~20KHzのスピーカーは、中域に比べて50Hzは音量1/3だという事を意味します。
さらにこの『-10dB』を悪用するスピーカーメーカーも。
例えば、50Hz~200Hzで音圧が-9.9dBであったとしても、
-10dB以下になるのが50Hzであれば、カタログ上の周波数特性は50Hz~20KHzと表記されます。
このようなスピーカーでは200Hz以下の低域の音量は1/3しかでていないのですから低音が物足りないのも当然です。
スピーカーメーカーでは少しでもカタログ上のスペックを良く見せようとします。
スピーカーメーカーを擁護するわけではありませんが、
『49Hz~20KHzのスピーカー』と『50Hz~20KHzのスピーカー』では『49Hz~20KHzの方が良いスピーカー』と単純に考えるユーザーにも責任の一端があるかもしれません。
小形スピーカーで低域が物足りなときに超低域だけを補完するのがサブウーハーです。
嘗てはサブウーファーを1本で再生するという時代もありました。
100Hz以下の超低域は指向性がないのでステレオ音源といえども1本で十分だと思われていたからですが、
現在では100Hz以下も指向性は感じる事ができると考えられており、2本のサブウーファーが必要だとする意見が大勢です。
また、部屋の隅に設置されることが多いサブウーハーですが、サブウーファーといえどもスピーカーです。
どこに設置しても良いわけではなく、メインスピーカーに準じるような位置に(メインスピーカーと並べて)設置しなければなりません。
他に調整も重要で、音圧やカットオフ周波数、位相等、細かな調整も必須です。
これらを無視しサブウーファーを使用するとボンボンというだけの低音となりますので注意が必要です。
最近は大口径38cmウーハーを搭載したスピーカーシステムは少なく、小口径ばかりです。その理由を考えてみましょう。
≪現代はスピーカーの能率はそこそこでOK≫
大口径スピーカーは能率が100dB以上と高く、1~10w程度のアンプで十分再生可能です。
小出力だった真空管アンプ時代には重要な要素ですが、現在のアンプは出力50w以上が標準。
スピーカーの能率は90dBもあればよく、大口径の高能率スピーカーにこだわる必要はありません。
≪大口径ウーハーは繊細な音場感を再生するのが苦手≫
最近は横幅が狭いトールボーイ型が主流。これは繊細な音場を再生するために有利な形状だからです。
スピーカーから発せられた音の大半は直接耳に届きますが、一部はスピーカーの表板(バッフル板)で反射され遅れて耳に入ります。
反射音が多いほど正確な音場の再生が困難になります。また、セッティングの難易度が高いことも問題です。
≪現代ではもはや大口径ウーハーは必要ない!?≫
現代のウーハーは振動板やマグネットに新素材が使われています。
振動板はコーン紙とも言い、嘗ては紙が使われていました。大音量で再生すると紙が変形して音が歪みますので、振幅が小さい大口径小振幅のスピーカーが主流でした。
現在は小口径大振幅のウーハーが主流。これはコーン紙がアルミやチタンといった金属やケプラー等の新脂素材になったためで、超低歪です。
また、スピーカーに欠かせないマグネットには、これまでフェライトマグネットが使用されていました。
一部の高級機には磁力が2倍程もある高価なアルニコマグネットが採用されていましたが、
現代では磁力が8倍もあるネオジウムマグネットが開発されています。
これらの新素材で小口径ウーハーは嘗ての大口径ウーハー以上のクオリティになりました。
とはいうもの、大口径ウーハーの奏でるおおらかな音には代えがたい魅力があるのも事実。
セカンドシステムとしてブルックナー専用に・・・というのはオーディオファンの夢でもあります。
スーパーツィーターは、ツィーターよりも高い周波数帯域を再生するスピーカーです。
多くは10KHzあたりから50KHz辺りの以上の帯域を再生します。モデルによっては100KHzまで再生するものも。
人間は20KHzまでの高音域を聴くことができると言われています。20KHzより上は聴こえないのであれば必要ないのでは?・・・と40年前は考えられていました。
そしてCDの上限は20KHzに設定されます。
CDが発売されてしばらくすると、一部のオーディオファンからCDよりもアナログレコードの方が高音質?という声が上がります。
CDは当時の最先端技術。対してアナログレコードは1910年代からの技術。
CDの方が良いに決まっている・・・はずだったのですが、アナログレコードには50KHzまで記録されているものもあるということが判りました。
エンジニアはCDが高音質でないのは20KHz以上を再生できないからでは?ということになり、
CDが進化したDVDでは上50KHzに拡大、ブルーレイでは100KHz、そしてハイレゾでは100KHzを超えるものまで登場してきました。
このように人間に聴こえないはずの20KHz以上の帯域が音楽に影響を与えているということは、これまでのデジタルメディアの変遷から明らかです。
それではどういった仕組みで聴こえない音が音楽に影響を与えるのでしょう?この答えは未だ不明です。
しかし、ヒントとなる事例はあります。バイオリンにストラディバリウスという16~17世紀に製作された高価な楽器があります。
現在400~500挺が現存すると言われており、優れた音質であるがために10億円を超える値が付くこともあります。
このストラディバリウスと音大の学生が使っている練習用のバイオリンの基音をマイクで測定しても違いを検出することはできません。
ところが倍音成分を分析するとその違いがでてきます。
それが高い周波数帯に分布する倍音成分の違いです。
人は年をとると10KHz程度までしか聴こえなくなると言われていますが、そんな方でもストラディバリウスの音には感動するわけです。
耳で聴こえないような高い周波数を再生するスーパーツィーターの価値がここにあるのではないかと考えられています。
現代ののレコードプレーヤーは購入すればすぐに使用できるものが多いのですが、嘗てのレコードプレーヤーはいくつかのパーツを組み合わせて自分好みに組み上げるのが主流でした。
現在でも別々のメーカーのパーツを組み合わせて楽しむことも可能です。ここではパーツの名称とその役割を2回に分けてご紹介します。
《カートリッジ》
かつてはピックアップと呼ばれていました。いわゆる『針』の部分です。レコード盤の溝の細かな凹凸を電気信号に変換します。
針はスタイラス、スタイラスから本体へ繋がっている細い棒を感知レバーといいます。スタイラスはダイヤモンドやルビー等の硬い鉱物で作られています。
カートリッジの出力電圧はCDプレーヤーの1/1000以下。とてもノイズや外部の環境に影響されやすいデリケートなパーツです。
《トーンアーム》
レコード盤の溝は外側から内側へと刻まれています。その溝に沿ってカートリッジを移動させ適正位置で再生できるようにする機構をもつパーツがトーンアームです。
カートリッジは振動をピックアップしているのですからしっかりと固定されているのが理想、
反面レコードの溝に沿ってにスムーズに移動する事も求められます。
この矛盾した動作を実現するためメーカーによって特色ある工夫がされています。
《ヘッドシェル》
カートリッジをトーンアームに取り付けるために使用します。かつては、多くのオーディオファンは複数のカートリッジを所有し、カートリッジをヘッドシェルに取り付けた状態で保管し、カートリッジを交換して音質の違いを楽しみました。
最近ではヘッドシェルとトーンアームが一体になったものが多くなりました。これはカートリッジを交換すると針圧、インサイドフォース、ラテラルバランス、アーム高等多くの調整を行う必要があり、そのためカートリッジを交換して楽しむユーザーがほとんどいないためです。
現代ののレコードプレーヤーは購入すればすぐに使用できるものが多いのですが、嘗てのレコードプレーヤーはいくつかのパーツを組み合わせて自分好みに組み上げるのが主流でした。
現在でも別々のメーカーのパーツを組み合わせて楽しむことも可能です。ここではパーツの名称とその役割を2回に分けてご紹介しています。その2回目です。
《ターンテーブル》
直径30cmのレコード盤を置く場所です。LP盤は1分間に33 1/3回転、EP盤は45回転で回転します。
回転数の変動はそのまま音程の変動につながりますので安定した回転を得られるよう様々な工夫がされています。
嘗ては重量級のターンテーブルを使用しその慣性によって安定した回転数を得られるようなプレーヤーが多くあり、これがレコードプレーヤーは重くないと音が悪いという誤解を生む元になっています。
現在は回転が滑らかなモーターが使用されていたり、モーターの動力をターンテーブルに伝えるためのベルトに新素材が使われており、軽いプレーヤーであっても安定した回転が得られるようになりました。
また、設置の際はターンテーブル面が大地に対して水平になるように水準器で確認しなければなりません。
《フォノケーブル》
カートリッジで変換された電気信号をフォノイコライザーアンプやプリアンプに伝送するためのケーブルです。
厳密にはMMカートリッジとMCカートリッジでは最適なケーブルは異なります。
MMカートリッジはインピーダンスが高いので高音域で減衰しない構造のケーブルを、MCカートリッジにはインピーダンスが低いので抵抗値が低いものを選ぶようにします。
《アース端子/アース線》
レコードプレーヤーは出力される信号電圧が低いためノイズの影響を受け易くなります。ノイズを逃す線路がアースです。フォノイコライザーアンプやプリアンプのアース端子に接続します。アースは必ず必要なものではありません。
現代のプレーヤーはノイズに強く、アースのないものもあります。
アナログレコードを再生するためには、レコード盤の溝に刻まれた音楽の波形を電気信号に変換しなければなりません。
この役割を担うのがカートリッジと呼ばれるパーツです。かつてはその役割からピックアップと呼ばれていました。
代表的な形式はMMカートリッジとMCカートリッジ の2つです。ここではそれらの原理と特徴について述べたいと思います。
《MMカートリッジ》
ムービング・マグネット型カートリッジを意味します。
スタイラス(針)から感知レバーによってカートリッジ本体に伝えられた音楽の波形による振動は感知レバーに取り付けられたマグネットに伝わります。
本体にはコイルが固定されており、マグネットとコイルの距離が音楽の波形による振動によって変化することでコイルに電気信号が発生します。
このような仕組みでレコード盤の溝の刻まれた音楽の波形が電気信号に変換されます。
MMカートリッジは出力電圧が高く、安価で初心者にも使いやすいカートリッジです。音質はダイナミックでローノイズ。
迫力のある音質からJAZZファンの中にはMMカートリッジを愛用されている方が多くお見えです。
《MCカートリッジ》
ムービング・コイル型カートリッジを意味します。
スタイラス(針)から感知レバーによってカートリッジ本体に伝えられた音楽の波形による振動は感知レバーに取り付けられたコイルに伝わります。
本体側にマグネットが固定されており、マグネットとコイルの距離が音楽の波形による振動で変化することによって電気信号に変換される過程はMMカートリッジと同じです。
MCカートリッジは出力電圧が低くいためMC対応のフォノアンプ、またはMC昇圧トランスが必要です。
針交換ができませんので、針が摩耗した場合はメーカーに送付し本体ごと交換します。
本体価格も針交換価格も高価です。
音質は繊細で、室内楽や女性ボーカルをお聴きになる方に人気があります。ノイズの影響を受けやすいのでレコードプレーヤーのセッティングには注意が必要です。
MMカートリッジとMCカートリッジに続き、MIカートリッジをご紹介します。
MIはムービング・アイアン型を意味します。
スタイラス(針)から感知レバーによって本体に伝えられた音楽の波形による振動は感知レバーに取り付けられた小さな鉄片に伝わります。
鉄片を真ん中に、片側にはマグネットが本体に固定され、別の側にはコイルが固定されています。
マグネットからコイルへと向かう磁束線を遮る位置にある鉄片が振動することでコイルに電気信号が発生する仕組みです。
MIカートリッジは、MMカートリッジやMCカートリッジよりその構造上優れている点があります。
微小な振動を本体に伝える感知レバーはできるだけ軽くする必要があるのですが、MMカートリッジでは感知レバーにマグネットが取り付けられていますので振動系の質量が増えてしまい、繊細な音が出にくくなります。
これを改良したのがMCカートリッジで感知レバーにはコイルが取り付けられているだけで軽量化には成功していますが、MCカートリッジには問題点も多くあります。
まずは、感知レバーに十分な巻き数のコイルを使用することができないため出力電圧はMMカートリッジの1/10しかありません。
また、コイルから電気信号をとりだすための電線が感知レバーの動きを妨げてしまいます。
MCカートリッジは、機械で大量生産することが困難で割高です。
MIカートリッジはMMカートリッジとMCカートリッジの良い所取りです。
出力電圧は高く、安価でありながら、音質は繊細でノイズの影響を受けにくくなっています。
MIカートリッジは1950年代にMCカートリッジを実用化させた米国グラド社によって開発されました。
カートリッジに電線を接続する4本の端子は赤、青、緑、白に色分けされていますが、これはグラド社の社内規格が全世界に広がったものです。
現在グラド社では自身が開発したMCカートリッジはもはや製造しておらず、進化したMIカートリッジのみを製造しています。
当社試聴室の標準カートリッジはMI型のグラド社・ステージシルバー3が使用されています。
このカートリッジは10Hz~55KHzと超広帯域で、その帯域は最新のサンプリング周波数96KHzのハイレゾ音源をも上回ります。
レコード盤の溝は外側から内側へと刻まれています。その溝に沿ってカートリッジを移動させ適正位置で再生できるようにする機構がトーンアームです。トーンアームは以下の点が重要です。
● レコード盤の溝の振動をピックアップするためしっかり固定されている
● レコード盤の溝に沿ってカートリッジをスムーズに移動させる
● 外部からの振動に影響されない
『しっかり固定』、『スムーズに動く』、『外部の影響を受けない』という矛盾する3つの条件をクリアするため色々な工夫がされています。
≪ワンポイントアーム≫
『スムーズに動く』に注目したのが『ワンポイントアーム』です。ヤジロベエのように針の先にバランスをとってアームが乗っかっているような状態のトーンアームです。
このタイプは確かに『スムーズに動く』のですが、『しっかり固定』には程遠く、外部の振動によってバランスが崩れてフラフラすることも。調整が難しいトーンアームです。
≪ナイフエッジ≫
ワンポイントアームの針をナイフのような板に代えた構造です。そのためカートリッジは横方向にフラフラすることはなくなり、縦方向だけ敏感に動くようになります。
ただし、カートリッジの位置を移動させるためにトーンアーム全体を回転させるベアリングが必要になり、ベアリングの精度がアームの良し悪しを左右します。
≪ハイコンプライアンス型≫
正確にはハイコンプライアンス型カートリッジに対応したトーンアームとなります。
感知レバーが僅かな力でも動くよう感度を高めたカートリッジに敏感に追従させるため極端に感度を高めたトーンアームです。
感度を上げるため各パーツが軽量化され、アームの長さも短く軽量に作られています。
これらはほんの一部。各メーカーによってさまざまな工夫がありますが、矛盾する3つの条件をクリアすることは不可能で絶対的なものはありません。
1950代半ばステレオレコードが発売されるまでレコードはすべてモノラル録音でした。
完全にステレオ化したのは1960年代後半で、ビートルズの初期のレコードにはモノラルのものもあります。
1948年にLP盤が発売されてから1960年代前半までの僅か15年程がモノラルLPの時代なのですが、この時代のレコードは現代でも人気です。
クラシックなら、フルトヴェングラーやトスカニーニ、ワルターといった往年の名指揮者やバックハウス、コルトーといったピアニスト、JAZZではブルーノート盤等名盤だらけです。
モノラルレコードはステレオカートリッジでも再生することは可能ですが、モノラル盤専用のモノラルカートリッジを使用するとさらに深みのある音で再生することができます。
また、ステレオ盤の溝には2チャンネルの信号が録音されていますので縦方向と横方向の振幅て音楽信号が記録されています。
しかし、モノラル盤は横方向の信号のみ。レコードを再生すると気になるスクラッチノイズ(プチプチノイズ)は縦方向のノイズですので、モノラルカートリッジで再生するとスクラッチノイズは驚くほど少ないです。
モノラル盤の再生で注意が必要なのは再生特性です。レコード盤には低域を信号レベルを低く、高域は高く録音されています。
この再生特性はRIAAという世界共通の規格で決められています。
ところが、RIAAが決められたのは1954年。概ね1960年位までのレコード盤はレコード会社によって異なる再生特性で録音されていました。代表的な再生特性は以下の通りです。
● old RCA(1954年までの米RCAレコード)
● ffrr(1945~1958の英デッカレコード)
● Columbia(1948~1960コロンビア、デッカ、HMV)
● old AES(Capitol、Mercury)
● old NAB(Westminster、VOX)
これらを無視してRIAAで再生すると正確な音を再生できません。一部のフォノアンプにはこれらの再生特性が搭載されています。
当社のフォノアンプではCuculo-pho2-monoとpho64sが相当します。
フォノアンプはフォノイコライザーアンプとも呼ばれ、レコード再生専用アンプです。フォノアンプには他のコンポーネントにはない特徴があります。
● 微小信号であるカートリッジの出力電圧を標準レベルまで増幅
一般的な機器は0.77v、 CDは2v(pp)ですが、レコードを再生するカートリッジの出力は0.005?0.0005v。中域で約100倍の利得があります。
カートリッジにノイズが混入するとノイズも100倍になってしまいます。
そのためフォノアンプに接続されるケーブルにはノイズに強い構造のものを使用したり、ノイズの少なく空間に設置する等の工夫が必要です。
● RIAA特性への等価(イコライジング)
レコード盤の音楽信号は中域に対して低域は約1/10に、高域は約10倍の振幅で記録されています。
前項のように中域で100倍の利得をもつ増幅器ですので、録音された時の音を再生するためには、低域は1000倍の利得で高域は1倍というとても変則的な周波数特性になります。
この変則的な周波数特性は米国レコード協会によって1954年に制定されたRIAA特性(RIAAカーブ)と呼ばれる特性で0.1dB単位で厳密に決められています。
他にもいくつかのアクセサリー回路が設けられていることがあります。
≪サブソニック・フィルター≫
レコード盤の反りによって超低域で音楽信号とは関係のない歪が発生することがあります。サブソニック・フィルターは超低域をカットし歪を低減させる回路です。
≪MM/MC切替≫
MMカートリッジ用フォノアンプの中域の利得は100倍程度ですが、MCカートリッジ用フォノアンプでは1000倍もの利得が必要になります。MM/MC切替はこの利得を切り替える回路です。
≪MCカートリッジの入力インピーダンス切替≫
MMカートリッジの負荷インピーダンスは47キロオームですが、MCカートリッジは1~100オームまでカートリッジによって異なります。
負荷インピーダンスは厳密に合わせる必要はありませんが、フォノアンプによってはLO(10オーム以下)、MID(10~20オーム)、HI(20オーム以上)のように切り替え可能なものもあります。
● レコードクリーナー(このアクセサリーは必須です)
レコード盤のホコリや指紋を拭き取ります。レコード盤を汚れた状態で放置するとカビの原因になり、元の状態に戻すことは困難です。
また、ホコリがついた状態でレコードを再生するとレコード盤を痛めることになります。当社では米国ディスクウォッシャー社製クリーナーを使用しています。
このクリーナーは米国国会図書館のレコードライブラリーで使用されているものです。現在米国では同様の製品がRCAブランドで発売されています。
● レコードクリーナー液(このアクセサリーは必須です)
レコードクリーナーを使用する際には必ずレコードクリーナー液を使用して下さい。使用しないとレコード盤の表面についた細かなホコリが盤面を痛める可能性があります。
レコードクリーナー液はアルコールが使用されているものは盤面を劣化させる場合がありおすすめできません。
● スタイラスクリーナー(このアクセサリーは必須です)
カートリッジの針先をクリーニングするものです。レコード盤の溝のホコリだけでなく、スタイラスによって削られたレコード盤(塩化ビニル)がスタイラスに付着します。
塩化ビニルは熱によって融けやすい物質です。レコード再生時の摩擦熱によってスタイラスが欠ける原因になります。
レコード針が減るという方がありますが、実はレコードの再生によって針が削られていくよりも、摩擦熱によってスタイラスが欠けていくことの方が多いのです。
スタイラスのクリーニングはカートリッジを長持ちさせます。
● EPアダプター
EP盤(ドーナツ盤)を再生する際にセンタースピンドルの直径が異なるために必要になります。EP盤使用時はセンタースピンドルの位置にEPアダプターを置き、その後EP盤を置きます。
● 針圧計
カートリッジは針圧調整が必要です。通常はアームにメモリがあり針圧計を使用しなくても調整可能ですが、メモリのない場合は針圧計は必須です。
レコードプレーヤーにはベルトドライブ・プレーヤーとダイレクトドライブ・プレーヤーがあります。
ベルトドライブ・プレーヤーは、モーターの回転がゴムのベルトによってレコード盤を載せるターンテーブルへ回転が伝達される方式です。
ダイレクトドライブ・プレーヤーはターンテーブルの中央にモーターが取り付けられておりモーターの回転が直接ターンテーブルを回転させる方式です。
他にもリムドライブもありますが、昔の形式で現在は使われておりません。ここではベルトドライブ・プレーヤーとダイレクトドライブ・プレーヤーのメリットとデメリットを解説します。
モーターは電磁波ノイズを発生します。モーターとカートリッジが近くにあると音楽信号にノイズが混入しやすくなります。
そこでモーターとカートリッジの距離をとりノイズの影響を受けにくくしたのがベルトドライブ・プレーヤーです。
ダイレクトドライブ・プレーヤーはターンテーブルの直下にモーターがありますので電磁波ノイズに不利です。
また、モーターは回転時振動します。ベルトドライブはその振動をゴムベルトを介することにでターンテーブルに伝わらないようになります。ダイレクトドライブ・プレーヤーはこの点でも不利です。
ベルトドライブ・プレーヤーは電源を投入してから回転が安定するまでに10秒ほど必要ですが、
ダイレクトドライブ・プレーヤーは電子回路によって回転数を制御しており、1秒程度で定速回転になりますのでラジオ局等業務用の用途では好都合です。
また、ディスクジョッキーがターンテーブルを手で回すような用途であっても使用することが可能です。ベルトドライブ・プレーヤーではゴムが伸びる可能性があるので使用できません。
現在では音質を重視したハイエンドのレコードプレーヤーはほとんどがベルトドライブ・プレーヤーです。
ダイレクトドライブ・プレーヤーはセッティングがラフで初心者でも扱いやすいため安価な入門用のプレーヤーに多いようです。
レコード盤にはLP盤、EP盤、SP盤等が数種類が存在します。
● LP盤
LP盤は直径30cmで40分から1時間程度の再生が可能です。販売されているレコード盤の8割以上LP盤です。
回転数は33回転のものが多いのですが、一部に45回転の高音質盤もあります。
● EP盤
いわゆるドーナツ盤です。正確には直径が17cm、ジュークボックスで再生することを想定してセンターにセンターに3.8cmの穴があり、
回転数が45回転のものをドーナツ盤またはシングル盤。直径が17cm、センターに7mmの穴があり、回転数が33回転のものをEP盤と呼びますが、
レコード店などではドーナツ盤とEP盤の区別をしないことがほとんどです。
ドーナツ盤を再生する場合は、ターンテーブルのセンターにドーナツ盤アダプターを使用する必要があります。
● SP盤
1960年代まで生産されていたディスク型の記録メディアの原形で直径は30cnまたは25cmで、78回転でした。
25cmのSP盤の片面の収録時間は3分程で、ここから歌謡曲等の歌ものが1曲3分になりました。
30cmのSP盤の片面の収録時間は7分程で、例えば、ベートーヴェンの交響曲5番を収録したSP盤は4枚組でした。
4枚のレコードが豪華な本のようなジャケットに収められておりこれをアルバムと呼びました。
現在何曲かの曲をまとめたCDをアルバムと言いますが、ここからきています。
● 10インチ盤
直径25cm、33回転の特殊なレコードもありました。
10インチ盤(トーインチバン)と呼ばれ数が少なくコレクターズアイテムになっています。
● ソノシート
EP盤サイズですが厚さが1mm程度で赤や白の半透明のソノシートというレコードもありました。これは図鑑や雑誌の付録として使われていました。
レコード盤の中にはオーディオファンのための超高音質盤が存在します。
● 重量盤
一般的なLP盤は120g程度ですが、重量盤と呼ばれる180g以上もあるレコード盤があります。
重量盤は限定盤として発売されることが多く、中にはシリアルナンバー付のレコード盤も。
重量盤のメリットは2つ。ひとつはレコード盤が厚いため反りにくくなります。
反りの原因はレコード盤の不適切な保管です。レコード盤は必ず立てて保管しなければなりません。
斜めに立てかけてある状態や何枚ものレコード盤を積み重ねると反りの原因になります。もうひとつのメリットは振動に対して強くなることです。
レコード盤はスピーカーからの音圧を受けて再生されています。
スピーカーからの音圧はレコード盤を振動させ、それがカートリッジによってピックアップされ、増幅されてスピーカーへ・・・これがハウリングと呼ばれるもので歪の原因になります。
レコード盤の重量が増えると振動が減りクリアな音質になります。
● ダイレクトカッティング盤
レコード会社によってはダイレクト・ディスクと呼ぶ場合もありますが同じものです。
通常レコードを生産するときは、演奏された音源をテープに録りミックスダウンやイコライジングを行い原盤を製作します。
ダイレクトカッティング盤では演奏された音源から直接原盤を製作します。テープを通らず、イコライジングもパスしますので鮮度の高い音質になります。
反面、レコード盤の片面分の演奏をワンテイクで行わなければならず、演奏者には大きな負担になり、レコーディングエンジニアも高い技術が必要です。
また、原盤を製作するカッティングマシンはレコーディングスタジオに設置されており移動ができるようなものではありません。
そのためスタジオに入りきらない大編成のオーケストラ等の録音は困難です。
ロサンゼルス響をダイレクトカッティング盤に収録したとき、ホールからスタジオまでの200mをケーブルで接続して録音したという記録もあります。