新・オーディオ入門 8
『オーディオはよくわからないけど良い音で音楽を聴きたい』、『オーディオ歴は長いけどこれは知らなかった!』というお話を聴くことがあります。 新オーディオ入門はオーディオの基礎についてエンジニアの視点から初心者の方にも判りやすく解説していくものです。 タイトルは私が10代の時に愛読した『オーディオ入門』から拝借しました。 私がオーディオに携わることになったきっかけの本です。 とても判りやすく説明されていて、手元に置いて辞書のように使っていました。 『新・オーディオ入門』はその現代版となれるよう書き進めたいと思います。
オーディオ工作を行うときに最初に手にする測定器はテスターでしょう。
テスターは日本語では回路試験器と言いますが、 海外ではmultimeter(マルチメーター)と呼ばれています。
昭和の頃はアナログテスターをテスター、 デジタルテスターをマルチメーターと呼んでいました。
デジタルテスターは測定レンジを間違えても故障することはありませんし、
小数点以下の値まで正確に読み取ることができますので 現在では多くのエンジニアが日常的にデジタルテスターを使用していますが、
ベテランのエンジニアは今でも1台だけは アナログテスターを手元に残していることが多いようです。
デジタルテスターは電池がなくなると使えないとか、 針が動かないと信用できないなどとも言われることもありますが、
その本当の理由は正弦波以外の交流を測定すると デジタルテスターではテスターごとに違った値を表示するためです。
アナログテスターでは実行値が示されますが、 デジタルテスターでは実行値、平均値、積算値、最大値や、
これらのいずれでもない値を示す事もあり、特に超小型のポケットテスターは要注意です。
ここではアナログテスターを使用する上での基本的な注意点をまとめてみたいと思います。
● 指定された置き方以外で測定しない
テスターはメーターが上向きになるような姿勢で使用するよう設計されています。
ラックに立てて置いて、電圧をモニターするというような用途には向きません。
● 日常的にゼロ点の確認を
テスターを抵抗計として使用するとき以外でもゼロ点の位置を確認してから使用します。
● 正確な値を読むために鏡を使用する
文字盤の一部が鏡になっていますので、 針と鏡に映った針とが重なる位置で測定値を読み取ります。
『テスター2』に続きます。
『テスター1』の続きです。
● 使用しないときはOFFまたは最も高い電圧を測るポジションに
OFFのポジションがあるアナログテスターは使用しないときは必ずOFFのポジションにしておきます。
アナログテスターの中には保護回路を搭載したタイプもあります。
そういったテスターは保護回路用の電池が入っていますので使用しないときは保護回路の電源を切るためにOFFのポジションにしておきます。
OFFのポジションがないアナログテスターを使用しないときは直流電圧の最も電圧の高いポジションにしておきます。
これは次回使用する際に慌てていてポジションの選択を忘れてしまってもテスターにとって最も被害が少なくなるポジションだからです。
● 振動を与えない
アナログテスターに使用されているメーターは大変デリケートです。 叩いたり、落としたりしてはいけません。
針の動きが悪い時に振動を与える方がありますが、おすすめできません。
● 使わない端子にはテープ貼る
テストリードを差し込むバナナ端子が複数あることがあります。
特別な時に使用する端子で、日常的に使用することはありません。このような端子はセロテープを貼り、使用できないようにしておくと良いでしょう。
テストリードを間違えて接続することもなくなりますし、
いざ使用しなくてはいけないときにホコリやサビで使用できないということも防ぐことができます。
● 抵抗はレンジを変えたら必ずゼロ点を合わせる
アナログテスターには抵抗計として使用する場合にゼロ点を合わせるツマミがあります。
使用前にテストリードを短絡させてゼロオームになるように調整します。この作業は1回しか行わない方が多いと思いますが、
抵抗計のレンジを変更すると僅かにゼロオームもずれてきます。レンジを変えたら必ずゼロ点を合わせ直す必要があります。
● ミリバル
交流電圧計には電源電圧を計測するものと音声信号を計測するものがあります。
電源電圧はインピーダンスが低く、電圧は数ボルト以上あるのでパッシブな交流電圧計で計測可能ですが、音声信号はそうはいきません。
例えばプリアンプの出力電圧は1ボルト以下で、計測には1ミリボルト単位の分解能が必要です。
また、インピーダンスも最低47キロオームは必要で、できれば500キロオームくらいのインピーダンスで測定したいところです。
これを実現するには交流電圧計に増幅回路を内蔵させる必要があります。
真空管時代にそれを実現したのがvalve voltmeter(真空管電圧計)で略してバルボルと呼ばれていました。
バルボルの中でも特にミリボルト単位の低い電圧が測定可能なものはミリバルと呼ばれました。
現在では真空管ではなく半導体の増幅回路を使用していますが現在でもミリバルと呼ばれています。
ミリバルの文字盤はボルトやミリボルト以外にdB(デシベル)も表示されておりアンプのゲインをデシベルで測定することも可能です。
● 歪率計
歪率計は増幅回路の歪率を計測する測定器です。急峻なノッチフィルターが内蔵されています。
1KHzでの歪率を測定する場合は1KHzの信号の電圧を100%に設定し、1KHzの信号だけをノッチフィルターで抜き取り、
それ以外のすべての信号の電圧が何パーセントになるのかを測定します。
ノッチフィルターは手動で調整するタイプ、全自動、半手動がありますが、正確な値を測定したいのであれば手動をおすすめします。
真空管アンプでは歪率3%というのもごく普通でしたが、現在の半導体アンプでは0.0001%以下になることも珍しくなく、
全自動タイプではここまで正確に計測することはできません。
ただし、ノッチフィルターの調整はとてもデリケートで簡単には調整できません。
歪率計でごくわずかな歪を測定する際は慣れが必要です。
また、歪率計は測定時にミリバルも必要になることが多いのでミリバル内蔵ものも販売されています。
オシロスコープとは時間と共に変化する電圧を計測する測定器です。
こう書くとバッテリーが減っていく様をグラフ化する様な測定器だと思われるかもしれませんが、
オシロスコープはごく短い時間の信号の変化を計測する事ができます。
それはつまり、信号の波形を観測することを意味します。
計測する時間を1/60秒とすれば、壁のコンセントの電源波形を観測できますし、
1/1000秒とすれば、オーディオの基準信号である1KHzの正弦波も観測可能です。
さらに1/10000秒とすれば音楽信号に重畳するノイズも見ることができます。
オシロスコープの使用方法は測定器の中でも特に難しく、
測定器のクセと測定者の技術によって観測できる波形は大きく異なってしまいます。
1vの電圧の1KHzの正弦波でしたら誰でも観測することはできますが、
そこに重畳する10mVで100KHzのノイズともなるとかなりハードルが上がります。
さらに、そのノイズが不定期に発生するものだとベテランエンジニアの領域になります。
こういったノイズの観測はストレイジ機能(単発で発生する電圧の変化をメモリに入れ、
静止させて見る機能)のあるデジタルオシロスコープと
リアルタイムで高周波までの観測が可能なシンクロスコープ(遅延掃引付オシロスコープ、
波形の一部を拡大して観測することが可能)を駆使して行うことになります。
当社では、このようなノイズの観測のために20年以上前のアナログのシンクロスコープを1台保管しています。
オシロスコープを日常的に使用するようになると
オシロスコープなしでの音響機器の製作は、目隠しをしているかのようです。
アマチュアの方は、測定器を買うぐらいなら、高音質のパーツを買うという方も多いのですが、
回路の問題点の解析や、高性能化には欠かせない測定器です。
現在では、小型で安価なポータブルオシロスコープもあり、通販で簡単に入手可能です。
安価なポータブルオシロスコープには帯域幅が500KHz程度のものもありますが、
おすすめは20MHz以上のものです。実際に20MHzの信号を計測することは稀ですが、
高周波ノイズの立ち上がり部分の周波数はかなり高いので500KHz程度では不十分です。
● VUメーター
VUメーターはvolume unit meterの略で音量計を意味します。
戦前アメリカで電話回線の信号が適正レベルであるかをチェックするために開発されました。
通常、文字盤はdB(デシベル)を単位とし、0dBが基準となり、-6dBでは基準値の半分のレベル、6dBでは基準値の2倍のレベルというように読み取ります。
音響機器は基準レベルを大幅に超えた電圧が入力されると歪が急激に増えます。
また、基準値を大幅に下回る電圧ではノイズに埋もれてしまい、いずれにしても信号の質が悪化します。
もちろん、0dBを超えるとすぐに歪が増大することはなく、ある程度の余裕をもっています。
一般的に信号の平均値が-6dBくらいが適正であることが多いと思います。
VUメーターは単独の測定器としても存在しますが、録音機やプリアンプ等に内蔵されていることが多い測定器です。
また、最近ではLEDを使用したものも多くなっています。
● ピークメーター
ピークメーターはVUメーターの一種です。信号レベルを測定するのは同じですが、ピークメーターは最大値を検出して表示します。
クラシックのようにピアニシモとフォルテシモの音量差が大きいと瞬間的な最大値が適正値を大幅に超えてしますことがあります。
こういった瞬間的な最大値を監視するのに有効です。ピークメーターはピークホールド型と、一定時間が経過するとリセットがかかるタイプがあります。
ピークホールド型はピークを検出すると針が固定されます。さらに大きなピークを検出すると表示される値が増えます。
この状態は別途リセットスイッチを動作させるまで継続されます。
一定時間が経過するとリセットがかかるタイプはピークホールド型をベースに数秒ごとにリセットされる回路が追加されているものです。
一般的なピークメーターはこのタイプがほとんどです。
また、ピークメーター機能をオフにし、通常のVUメーターと切り替えて使用するタイプのものもあります。
オーディオコンポーネントの特性を測定するときに特定の音域だけを測定したい場合や、特定の音域だけを除いて測定したいことがあります。
そのようなときにはフィルターを使用します。
音域を区別する際に急峻な特性で区別する振フィルターもあれば、なだらかな特性のフィルターもあります。
ここでは主要なフィルター4種を紹介します。
● ローパスフィルター(LPF)
カットオフ周波数(fc)から低い周波数のみを通過させるフィルターです。
ハイカットフィルターと呼ぶこともありますが同じものです。
最近のオーディオコンポーネントはハイレゾ対応のものも多く、100KHz以上まで伸びているものもあります。
しかしながら100KHzを超えた帯域では放送波等もあり(NHK東京594KHz、NHK大阪666KHz)正確な測定ができない場合もあります。
そのようなときカットオフ周波数が20KHzや100KHzといったローパスフィルターを使用して測定することがあります。
● ハイパスフィルター(HPF)
カットオフ周波数から高い周波数のみを通過させるフィルターです。ローカットフィルターと呼ぶこともありますが同じものです。
オーディオコンポーネントの多くは50Hzまたは60Hzの商用電源(壁のコンセントの電源)で動作しています。
商用電源は100vと電圧が高く測定に影響を及ぼすことがあります。
そのようなときカットオフ周波数が400Hzや100Hzといったハイパスフィルターを使用して測定することがあります。
● バンドパスフィルター(BPF)
ローパスフィルターとハイパスフィルターの両方の特性を足したフィルターです。
たとえば、20Hz~20KHzのように特定の帯域で測定をしたいときに使用します。
● ノッチフィルター
バンドパスフィルターの反対の動作をします。ある特定の帯域だけを通過させないようにします。
歪率を計測するようなときに使用します。
オーディオコンポーネントの測定において、基準値となるものを用意し、その基準値に対して変化した値を求めることがあります。
● ステレオ基準レコード
レコードプレーヤーやカートリッジの特性を測定するためのレコードです。
1KHz/0dBの基準信号や、右チャンネル/左チャンネルの信号、31.5Hzから20KHzまでのスィープ信号、無音トラック等が録音されています。
LPレコードのサイズですが、45回転で録音されており、より高域特性がフラットになっています。
● オッシレーター(OSC)
正弦波発振器です。超低歪の正弦波が20Hz以下の超低域から100KHz以上の帯域まで安定して出力されます。
出力電圧レベルを自由に可変することができます。
最近ではファンクション・ジェネレーターと呼ばれる、正弦波だけでなく三角波や矩形波、鋸波等の信号を発生させるものが多くなっていますが、
ファンクション・ジェネレーターはデジタル回路で作り出した信号であり、オッシレーターのように発振させた信号ではありません。
その大きな違いは歪率です。低歪の信号源を必要とするのであればファンクション・ジェネレーターはおすすめできません。
● 測定用マイク
音場やスピーカーの周波数特性を測定するときに使用するマイクです。
通常、測定用マイクは測定機材に付属しています。付属のマイクはその測定機材専用ですので他の測定機に使用することはできません。
まして、音楽を収録するために使用することはありません。測定用マイクは周波数特性がフラットで均一だと思われていますがそれは間違いです。
そのマイクを使用する測定機材にマイクの特性を補正する回路が内蔵されており、
マイクと測定機材を組み合わせたときにフラットになるよう設計されています。
同じ型名の測定器であってもマイクと測定器を組み合わせて調整している可能性がありますのでマイクを入れ替えて使用するようなことはできません。
電源関連の測定機の中でオーディオ機器の製作や使いこなしに関して使用されるものをピックアップしました。
● クランプ計
交流電源で動作する機器の電源の電流値を測定する計測器です。使用方法は簡単で2本ある電源線の内、1本をクランプ計に挟み込みます。
この挟み込むという様からクランプ計と言われています。
測定するオーディオコンポーネントを通常の使用状態で(音楽を再生していてもOK)計測することが可能です。
測定される側のオーディオコンポーネントには何の影響もありません。
● 電力計
電源回路において消費している電力を計測する測定器です。
電力=電圧×電流ですので、電圧を電流を別々に計測し掛け算をするば導き出せると思われるかもしれませんが、それは直流電源の場合です。
交流電源では位相の問題があり、電力=電圧×電流とはなりえません。しかし、電力計を使用すれば正確に電力を測定することができます。
● ネオン検電器
商用電源のように2つの電極の内片側がアースがされている電源には、接地極(N)と非接地極(L)が存在します。
接地極は電柱のアース線で大地に接続されているため、「アース極」などと呼ばれることもあります。
これは正式な用語ではありません。しかし、電極を判りやすく表現する用語としてオーディオファンの間では定着しています。
ネオン検電器は検電ドライバーと言われる非接地極を確認するツールです。
使用方法は簡単で、検出部を壁のコンセントの電極に挿し、指定された場所に手で触れると、
差し込んだ電極が非接地極であればネオン管が点灯し、接地極であれば消灯します。
簡単な仕組みのものですが極めて正確にチェックすることができます。電池も必要ありません。
千円以下のものもあり、安価ですので1本は持っておきたいツールです。
オーディオコンポーネントの測定において、便利なものや、測定器に準じるものをピックアップしました。
● 負荷用抵抗器
パワーアンプやプリメインアンプを測定する際にスピーカーを負荷としても正確な値は計測できません。
周波数特性もインピーダンスもスピーカーによってまちまちで基準とすることができません。
スピーカーは抵抗、コンデンサー、コイルの要素が含まれ複雑に組み合わされているため、測定のためには純抵抗を使用する必要があります。
このような用途で使用するのが負荷用抵抗器ですが、市販されている20w程度のセメント抵抗で十分に代用できます。
測定内容によっては発熱することもあるので放熱器に取り付けると良いでしょう。
● ショートピン
オーディオコンポーネントの内部で発生する残留ノイズ量を測定する際は、外部からノイズが混入しない状態で測定しなければなりません。
ノイズが外部から混入の可能性があるルートの中で測定値に最も大きく影響するのが入力端子(RCAジャック)からのノイズです。
たとえば、ゲインが20dBのパワーアンプの入力端子に1ミリボルトのノイズが混入したとすると、出力には10ミリボルトのノイズとなってあらわれます。
ショートピンは入力端子をグランドと短絡するもので、入力端子から混入するノイズをゼロにすることができます。
● スペアナ
スペアナはスペクトルアナライザーの略で、周波数帯域ごとの電圧レベルを表示するものです。単位はデシベルが多く使用されています。
かつてはLEDが使用されていましたが、現在では液晶で表示されますので測定値をより詳細に表示することが可能です。
測定器というよりは音楽信号の周波数分布を確認したり、見ていて楽しいアクセサリーとしての用途で使用されることが多くなっています。
ここに挙げたものは図面を描くために寸法を測るための測定器です。
私が新入社員の頃、先輩エンジニアからこれらはただのツールではなく
測定器だと教えられたのを懐かしく思い出します。
精密なものなので丁寧に扱うことや、
ドライバーやニッパーといった工具と同じ工具箱に入れることなく、
測定器が置かれている場所に保管すること、
場合よっては校正が必要だということを学びました。
● ノギス
厚みや、長さ、外径、隙間の距離、穴状の深さ等を測定することができます。
幕末に日本に輸入され、精密な目盛を意味するオランダ語のノニウスから
ノギスと呼ぶようになったと言われています。
アナログノギスとデジタルノギスがありますが、
使用頻度が低いアマチュアの方にはアナログノギスをおすすめします。
デジタルノギスは0.1mmの分解能があり、
読み取りは簡単ですが電池が切れることがあります。
アナログノギスは読み取りには慣れが必要ですが、0.05mmの分解能があります。
● マイクロメーター
板厚を測定します。0.01mmの分解能があり、ノギスよりも精密な測定が可能です。
また、板厚を測定する場合に測定物の縁ではなく数センチ内側の板厚を測定できますので、
より正確な測定が可能です。マイクロメーターもノギスと同様の理由でアナログ型をおすすめします。
● 隙間ゲージ
リーフと呼ばれる決められた板厚の金属板を隙間差し込んで隙間の距離を測定します。
複数のリーフを組み合わせることで0.04mmから0.01mm単位での測定が可能です。
● テーパーゲージ
穴径を測ることができます。
ノギスでも測ることができますがテーパーゲージでは直径0.1mmといったごく小さな穴でも計測可能です。
0.1mmの分解能があります。
ここではオーディオ工作やオーディオコンポーネントの簡単なメンテナンスを行うための工具を紹介したいと思います。
私が新入社員だった頃、先輩エンジニアから工具一式を与えられましたが、
工具を使用するにはメンテナンスを行うことができなければいけないと教えられました。
小刀が砥げないのであれば小刀を使ってはいけない。カッターナイフを使うべし・・・というようなものでした。
今ではパワハラと言われそうですが、
メンテナンスをきちんと行うことができれば毎日使用するような工具でも20年以上使用することができるものもあります。
● ニッパー、ペンチ、ラジペン、ピンセット
オーディオ工作やオーディオコンポーネントの簡単なメンテナンスで最低限揃える必要がある4種の工具です。
ニッパーは銅線のみを切るようにします。鉄線やステンレス線のように硬い線を切る場合はペンチを使用します。
鉄線やステンレス線を切ってしまうと切れ味が大幅に悪くなります。
ラジペンをラジオペンチのことで先が細いものの方が使いやすい。
使いやすいものがない場合は先端をヤスリで削って好みの太さにするという方法もあります。
ピンセントの先は刺さるくらい尖ったものがおすすめです。
● ワイヤーストリッパー
ビニール線の被覆を剥くための工具です。
高価ですが、VESSEL社のNo.3000や、東京アイデアル社のストリップマスターがおすすめです。
メーカーによっては導体に傷をつけてしまうものもあるので注意が必要です。
使用する電線の種類や太さによって使い分けなくてはいけない場合もあります。
私はアイデアルのケーブル径が異なるワイヤーストリッパーを3種使用しています。
● ドライバー
中型のマイナスドライバー1本と、大中小のプラスドライバーが必要です。
ドライバーだけは100均ではなくきちんとしたメーカーのものをおすすめします。
● 半田ごて
一般的な半田付けを行う場合、プリント基板に対する半田付けであれば30~40w、
太い電線を半田したり、真空管アンプを製作するということであれば50~60w程度の半田ごてがおすすめです。
半田ごてはこて先が交換できるものとできないものがあります。こて先は消耗品なので交換できるタイプがおすすめです。
また、半田ごての形状には鉛筆型やピストル型があります。
最近はフラットパッケージのICやチップ部品のように細かな作業を必要とする電子パーツも多くなっています。
このような作業には鉛筆型が便利です。半田ごてには温度調節ツマミがついているものもあります。
便利な機能ではありますが、この部分の故障は意外と多いということを考えて選択してください。
● 半田
半田にはその成分に鉛入りと鉛が入っていないもの(鉛フリー)があります。
鉛入り半田の融点は180度、鉛フリー半田の融点は220度です。
鉛フリーの半田は溶けにくく、熱を加えている時間が長くなるため電子パーツのダメージが心配です。
個人でオーディオ工作を楽しむのであれば鉛入り半田をおすすめします。
ただし、鉛入り半田を使用した製品は販売できない国もありますのでそういった国向けであれば鉛フリー半田を使用する必要があります。
また、銅入り半田や銀入り半田等があり、高音質だといわれていますが、これらの半田の銅や銀の配合は数パーセント程度です。
● 半田吸収線
半田付けに失敗した場合、半田をとりたいことがあります。
このようなときは嘗ては半田吸取器を使用していましたが基板にダメージを与える可能性が高く、当社では半田吸収線を使用するようにしています。
半田吸収線は銅の網線にフラックスをしみこませたもので半田ごてで温めるだけで半田を吸収します。
とても便利ですが、半田を一度吸収した部分は切って廃棄するしかなく、使用コストは高めです。
● テーパーリーマー
金属のシャーシ等に開けられた孔を大きくするための工具です。
鉄板でも5mm程度の孔であれば多少は大きくすることが可能ですし、
アルミのような柔らかい金属であれば20mm以上の孔でも大きくすることが可能です。
また、ユニバーサル基盤(万能基盤)のような樹脂の孔を大きくすることもできます。
● 六角レンチ
六角穴付ボルト等に使用します。
六角穴付ボルトは一般のお客様にネジを緩めてほしくない場所に使用されたり、
ドレスネジとしてパネルや天板といった目立つ部分のねじ止めに使用されます。
六角穴は番手が細かく分かれており1番手異なるものでも使用できません。
そのため色々な番手のものを用意しておかなければなりません。
また、最近は星形穴のネジも使用されるようになりました。これは一般のお客様にネジを緩めてほしくない場所に使用されます。
星形穴のネジには専用の星形レンチを使用します。
● 黒刃のカッターナイフ
カッターナイフは一般的なものですが、エンジニアや職人によっては黒刃を使用する方があります。
とくに住宅のクロスを貼る職人は良く使用しています。
黒羽は刃の切れる部分の厚みが薄く、切れ味も一般的なカッターナイフを上回ります。
力を入れて切るというような用途には向きませんので、一般的なカッターナイフと黒刃のカッターナイフと2種を使い分けて使用すると良いでしょう。
● 調整ドライバー
半固定抵抗等の調整のための超小型のドライバーで決してネジ回しとして使用してはいけません。
高周波で使用されているトリマー(半固定コンデンサー)にも使用できる本格的な調整ドライバーでは金属部分が小さく、
薄い方が精密に調整することができるため先端部分の強度はあまり高くはありません。
趣味のオーディオ工作で電動工具を使用する場面というと、スピーカーの製作が最も多いのではないでしょうか。
スピーカーの製作において電動工具はどうしても必要というわけではありません。
しかし、電動工具を上手く活用することで、正確に、早く作業をすすめることができます。
最近はDIYを趣味とする方のために簡易的な電動工具がホームセンターなどで安価に入手できるようになりました。
ホームセンターでは木材のカットサービスも行っていますのでこういったサービスと組み合わせることで
高精度で見た目が綺麗なスピーカーを製作することが可能です。
また、最近ではバッテリーを内蔵したケーブルレスの電動工具も増えてきました。
しかし、何ケ月に一度という頻度で使用する趣味のオーディオ工作では不向きです。
使用したいときに充電が切れているというのはアルアルですし、数年で高価な電池を交換しなければならなくなります。
● 電動ドリル
オーディオ工作にはハンディタイプの電動ドリルが適しています。
大きな穴を開けることは少ないと思いますので大型のものではなく一般的なDIY用のもので十分です。
ドリルの刃は7mm程度まで使用できるものを選んだ方が良いと思います。
また、ドリルの刃の代わりに、回転ヤスリのビットやポリッシャーのビットに付け替えて使用することで多くの作業をこなすことが可能です。
ぜひとも揃えておきたい電動工具です。
● 電動ノコギリ
電動ノコギリには、回転ノコギリやジグソーもありますが、オーディオ工作に使用するのであればレシプロソーがおすすめです。
それぞれに特徴があり、レシプロソーは樹木の剪定に使用されることが多いと思いますが、幅の広い板や厚みのある板を切ることができ、
取り扱いも回転ノコギリほど危険ではありません。
ただし、まっすぐな直線でカットするためには慣れが必要です。
細い刃をつければ、スピーカーユニット取り付け用の穴を開けることも可能です。
● サンダー
電動ヤスリと表記しているメーカーもあります。取り付けたサンドペーパーをモーターが動かします。
大量の削り粉がでますが、掃除機を接続できるタイプもあります。
その場合はサンドペーパーは専用のものを使わなくてはなりませんが、屋外での作業であれば掃除機を接続する必要もありませんし、
市販されている紙やすりでOKです。使用した後は削り粉をきれいに掃除して保管するようにしましょう。
● ハンディグラインダー
回転するディスク型の砥石で木材や金属を削るものです。正確に削ることはできませんので、粗削り等の前加工に使用します。
サビ落としにも使用することができます。
グラインダーは本格的な据え置き型のものもありますが、ハンディ型であれば5000円程度で入手することができます。
● ルーター
ハンディグラインダーではディスク型の砥石を使用しますが、ルーターではドリル型の砥石を使用します。
歯科医が使用するタービン(キーンという音がする)と同じような機能です。
ハンディグラインダーよりも細かく削ることができますので工作以外にも彫金等に使用されることもあります。
また、バフ(布製の研磨用ヘッド)を取り付けて磨きに使用することもできます。
● 電動ドライバー
電動ドライバーはとても便利な電動工具ですが、当社では生産には使用していません。
電動ドライバーはビットと呼ばれるネジの形状に合わせた(プラスやマイナス、六角等)アタッチメントを取り付けて使用しますが
ビットはネジに完全に一致したものでないとネジをかじって(ネジ頭が破損)してまいます。
アタッチメントを取り換えるのはたいへんなので、同じネジばかりを締め続けるような作業には向きますが、
オーディオ工作には向かないかもしれません。
オーディオコンポーネントは家庭用電化製品です。
家電製品としての安全性や操作性を考慮することはもちろんですが、オーディオコンポーネントは趣味のツールであり、
場合によっては趣味そのものと考えることができます。
趣味の製品である以上、万人が『可』とするデザインではなく、ムジカを応援していただけるユーザーに『秀』をいただけるようなデザインを目指すべきだと考えています。
海外のオーディオコンポーネントにはユーザーを引き付ける特徴があります。
マッキントッシュの青いメーターを見れば、全くの新製品であってもマッキントッシュの製品だと判ります。
反面、デザインが縛りになり、おもいっきったデザインができないというジレンマもあります。
ムジカは創業22年となりましたがそういったしがらみが全くない独立系メーカーですのでおもいきったデザインに挑戦してきました。
ここではムジカのデザインに関する取り組みをご紹介します。
● 目盛の廃止
当社が創業3年目に40シリーズを発売したとき、ボリューム目盛りと入力セレクターの文字を廃止しました。
古くよりテレビやラジオにはボリュームの目盛りはなく、日常的に『音が小さければ上げる』『音が大きければ下げる』という操作を行ってきました。
しかし、オーディオコンポーネントは昔からなぜか目盛りがあります。
おそらくは目盛りが必要な業務用音響機器のデザインを模したものだと思われます。
当初、目盛りのない40シリーズプロトタイプをいくつかの取扱店にお持ちしたところ、
『目盛りがないと売れない』『目盛りがないのはおかしい』というご意見をいただきました。
しかし、一部の販売店では『すっきりしていてよいデザイン』『シンプルでよい』との評価をいただき、40シリーズ目盛りなしの発売に踏み切りました。
40シリーズは思いのほか好評をいただき、現在発売中の製品にも踏襲されています。
それから20年程経ちますが目盛りがなくて困るというご意見は現在までに3件程度です。
現在では目盛りのないオーディオコンポーネントが多くのメーカーで取り入れられています。(画像はプリメインアンプint40)
ここでは前回に続いて、ムジカ製品のデザインに関する取り組みをご紹介したいとおもいます。
● 空気流通孔や窓のデザイン
空気流通孔とはパワーアンプのような発熱するオーディオコンポーネントのケースに開けられた放熱のための穴です。
大きくなるほど放熱は促進されますが、指が入るほどの大きさの穴になると小さなお子さんが指を入れ事故になることも考えられます。
そのため一般的なオーディオコンポーネントではスリット状の小さな穴を複数あけることが多いのですが、これではなんとも味気ないものになってしまいます。
ムジカRaicho7ではバイオリンなどの弦楽器のf字孔を模した空気流通孔を採用しています。
また、真空管バッファアンプの真空管のヒーターが点灯しているかを確認する窓には、
米フェンダー社が1952年に発売したエレキギター「テレキャスター」のトップの形をしています。
現代の国産オーディオコンポーネントではこういったデザインは見かけませんが、
1960年代の古い真空管ラジオには遊び心あるデザインを見ることができます。
当社の試聴室にはデザイン上の資料とするために古い真空管ラジオが展示されています。
● フロントパネルのカラーやトップパネルの素材
オーディオコンポーネントのフロントパネルはシルバーやシャンパンゴールドであることが多いのですが、
ムジカでは着色が難しいクリスタルブラックと呼ばれるピアノ仕上げのような黒や、
ツヤを50%に抑えたピストルなどに使用されているサテンブラックを用いています。
これらは色に統一感を出すのが難しいのですが、高度な技術をもった協力工場がそれを実現しています。
また、トップパネルには石材を用いることもあり、Raicho7では、インド産天然石『スターギャラクシー』を、
Cuculoではノルウェー産天然石『エメラルドパール』を使用しています。
これらの石材は『石』と『宝石』の中間に分類される高価な石材で『貴石』と呼ばれます。
ムジカ製オーディオコンポーネントは単なる工業製品ではなく、 楽器のように音楽を奏でるツールのひとつであると考えてデザインされています。
ここでは前回に続いて、ムジカのデザインに関する取り組みをご紹介したいとおもいます。
● ハーフサイズ
一般的なオーディオコンポーネントは横幅40cm程度です。これは業務用の規格である19インチ(48cm)ラックに収まるサイズが起源です。
この規格は第2次世界大戦以前に米国で軍用の規格として定められたもので、その後、通信機器や音響機器にも使用されるようになりました。
近年、電子パーツは小型化が進み、当時の半分以下の大きさになりました。当然オーディオコンポーネントを小さくすることが合理的です。
ヨーロッパでは小型が先行し、30cmサイズコンポーネント、
または19インチの半分のサイズ(20~24cm)であるハーフサイズコンポーネントが主流となりました。
ムジカではヨーロッパへの輸出のためにハーフサイズコンポーネントを生産しておりましたが、
近年の住宅事情によって日本国内でも需要が多くなってきています。
ムジカの製品ではRaicho7が30cmサイズコンポーネント、Raicho7miniがハーフサイズコンポーネント、
Cuculoはクォーターサイズ(1/4サイズ)となっています。
アメリカや他のアジア諸国では未だ19インチサイズが主流ですが、中身は最新の小型電子パーツの使用で空間ばかりという製品もあるようです。
● レトロとモダン
最近は昭和レトロブームです。
オーディオコンポーネントにおいても、シンプルで機能的でありながら、遊びの要素がある1960~70年代のデザインは国内外を問わず非常に魅力的でした。
こういったデザインはムジカの製品にも取り入れられています。たとえば、Cuculoではフロントパネルにデザインの一環として取手を設けています。
この取手は嘗て19インチラックにコンポーネントを収める際に使用されていました。
Cuculoではフロントパネルに取り付けられたスイッチやボリュームのツマミをガードするという役割が付加されています。