新・オーディオ入門 3
『オーディオはよくわからないけど良い音で音楽を聴きたい』、『オーディオ歴は長いけどこれは知らなかった!』というお話を聴くことがあります。 新オーディオ入門はオーディオの基礎についてエンジニアの視点から初心者の方にも判りやすく解説していくものです。 タイトルは私が10代の時に愛読した『オーディオ入門』から拝借しました。 私がオーディオに携わることになったきっかけの本です。 とても判りやすく説明されていて、手元に置いて辞書のように使っていました。 『新・オーディオ入門』はその現代版となれるよう書き進めたいと思います。
プリアンプとパワーアンプは何が違うのでしょうか。両方とも『アンプ』とついていますので増幅器であることは間違いないのですが、
動作は全く異なります。
その動作をダムの放流に置き換えて考えてみると、判りやすく説明することが可能です。
この場合、プリアンプはダムを操作するオペレーターで、パワーアンプはダムでしょう。
そして放水される水がスピーカーをドライブする電流です。
ダム(パワーアンプ)には水門があり開けると水が放流されます。ところがダム(パワーアンプ)自身では水門を操作することはできません。
水門を操作するのはオペレーター(プリアンプ)であり、どのくらいの水量を放水するのか、どのくらいの時間放水するのかを常にコントロールされています。
また、いくら放流しようとしてもダム湖に水がなければ放流はできません。つまり、ダム湖はパワーアンプの電源回路に相当します。
僅かに放流するだけであれば問題なく放流できても、大量に放流したり、長時間放流し続けるためにはダム湖(電源)にいっぱい水が溜まっているか、川の上流から常に水が潤沢に供給されている状態が必要です。
水をいっぱい貯める方式はパワーアンプで電源事情が良くなかった1970~80年代に有効でした。
現在は電源事情は改善されたため、上流からスムーズに水を供給することが求められます。
昔のパワーアンプは大容量の電解コンデンサーに電気を貯める必要があったので大きくて重くかったのですが、
最新のパワーアンプは小型軽量です。ところが、昔の大型アンプよりも性能が良いスイッチング電源が搭載されており、スムーズに電気を供給するために電源ケーブルのクオリティにも気を使うなど、
パワーアンプの設計思想も変化してきました。
極論を言えば、パワーアンプの本質はダムのゲートであり、それを開けたり閉めたりしているだけなのです。
コントロールしているオペレーター(プリアンプ)の方が遥かに重要な役割を担っているとも考えることができます。
パワーアンプの選択において最も重要視するべきは、どのようなスピーカーシステムを使用するかということです。
まずはスピーカーシステムを決め、その上でそのスピーカーシステムとスピーカーが置かれた環境に最適なパワーアンプを選択する・・・という順番が理想です。
例えば、最新の中型トールボーイスピーカーを12畳ほどの部屋で再生するのであれば、50~100wの半導体パワーアンプをお勧めします。
同じ12畳の部屋でもアルテックA5やA7のようなスピーカーであれば、3~10wの真空管アンプが良いでしょう。
3極管を使用したシングルアンプであれば言うことありません。
古いスピーカーでもJBL LE8Tのようなスピーカーであれば、ビーム管や5極管のプッシュプルで10~30wくらいのものがおすすめです。
口径10cm位の新しいフルレンジスピーカーであれば、デジタルアンプというのも面白い選択です。
これらは音質上の相性もさることながら、スピーカーをドライブする最適な電力をパワーアンプの動作点に合わせた結果です。
『最新の中型のトールボーイ型スピーカー12畳ほどの部屋で再生する場合の50~100wの半導体パワーアンプ』では、最新のダイナミックレンジの大きな音源を比較的大音量で聴くという想定をしました。
その場合、瞬発力のある大パワーのパワーアンプが必要になります。これは半導体アンプの得意分野です。
『アルテックA5やA7に3~10w3極管シングルアンプ』では、能率が高いアルテックA5やA7に必要なパワーは1w以下です。
しかし、能率が高いということは微小なパワーの領域においての再生が耳につくことになりますので歪が少なくなくてはいけません。
3極管シングルアンプは回路がシンプルでこういった再生には長けています。
しかし、周波数特性は狭く、立ち上がり特性も悪いため現代的な音源の再生には不向きです。
アルテックA5やA7を選ぶということは1960年代までの古い音源がお好きな方と想像できますのでこの組み合わせで問題はおきないのではないか・・・と考えます。
このような場合最もいけないのは80~90年代のの大出力アンプとの組み合わせです。スピーカーが劣化する危険性があります。
ここでは音楽信号を増幅するための素子として真空管だけを使用したものを真空管パワーアンプと考えます。
真空管と半導体のハイブリッドアンプは含まれません。
真空管パワーアンプの一般的な特徴は以下の通りです。
● 電源の消費電力は大きいが、出力が小さい
真空管は50年以上前に設計された増幅素子。当時大出力アンプはそれほど必要とされていなかったため小出力で、電源に対する出力の効率も悪いです。
● 周波数特性が悪い
真空管パワーアンプは出力トランスを使用するのが一般的。
周波数特性の悪さは出力トランスがボトルネックとなっています。特性の良い高価な出力トランスを使用すれば良いのですが、出力トランスは真空管パワーアンプの中でもとびぬけて高価なパーツです。
これがさらに高価なものになることは現実的でありません。
また、出力トランスを使用しないOTL(アウトプット・トランス・レス)という方式もありますが、故障が多いためほとんど使用されません。
● ノイズや歪が多い
真空管アンプにはカソードを温めるヒーター回路が必要です。
そのため真空管を覗いてみるとかすかに光っているのですが、ここからノイズが侵入します。俗に言う『ハム』というノイズでブーンという音が常に出ている状態になります。
また、真空管パワーアンプは出力が小さいため、無理に出力を増大させようと工夫し、これが歪を増やす原因になります。
● 微小信号の増幅に長けている
真空管パワーアンプの唯一のメリットは微小信号を増幅することに長けているという点です。
この場合の微小信号というのは小さな音というだけではありません。例えば、バイオリンの倍音成分のような大きな信号に隠れてしまうような信号も含まれます。
これがいわゆる『響き』です。真空管パワーアンプは多くのデメリットを抱えながらも『響き」でオーディオファンを魅了するパワーアンプと言えます。
ここではアナログ入力、デジタル入力を問わず、出力段にアナログ増幅回路使用しないパワーアンプをデジタルパワーアンプと定義します。
テレビやBluetoothスピーカー、スマホ等に内蔵されているパワーアンプは、そのほとんどがデジタルパワーアンプです。
デジタルパワーアンプの一般的な特徴は以下の通りです。
● 電源効率が良い
一般的なパワーアンプでは供給される電源エネルギーの半分程しかスピーカーへの出力として取り出すことができませんが、デジタルアンプでは80%程のエネルギーを取り出すことが可能です。
電源効率が良いデジタルアンプはバッテリーを長持ちさせる必要があるスマホやノートパソコンにとっては重要で、近年のデジタルアンプ技術の底上げにつながっています。
● 小形軽量で安価
電源効率の良いデジタルアンプは発熱が少ないため放熱のためのヒートシンクや大容量の半導体を必要としません。そのため小型軽量となり、結果として安価に生産する事が可能です。
そのため電子回路はチップ化され大量に生産されています。チップ化によってさらに安価となり部品点数も減少しました。今ではしゃべる冷蔵庫等多くの家電製品がデジタルアンプを搭載するようになりました。
● 低域が弱い
デジタルアンプの問題点はここです。デジタルアンプの出力回路には必ず高周波カット用のコイルを直列に接続する必要があります。
コイルはインダクタンスと直流抵抗を増加させますので、スピード感や低音域での迫力を低下します。これはサンプリング周波数が低いため起こる現象です。
将来サンプリング周波数が上昇した場合、インダクタンスの小さなコイルを使用することで解消される可能性があります。
当社でもOEM(相手先ブランドによる生産)や、セット販売用の製品としてデジタルアンプを生産しています。
アナログアンプであるならばパワーアンプは、シングルアンプ、プッシュプルアンプ、BTLアンプのいずれかの回路方式に属します。
それは真空管アンプであっても、半導体アンプであってもです。
それぞれの回路方式の特徴は以下の通りです。
● シングルアンプ
増幅素子を1ケだけ使用する増幅回路です。動作は必ずA級動作になり発熱が大きくなります。回路は簡単です。半導体パワーアンプで使用されることはまずありません。
真空管パワーアンプでは古典管と呼ばれる1930年代までに設計された真空管で使用されることが多い回路方式ですが、歪も多く、小出力で数ワットしか出力することができません。
● プッシュプルアンプ
増幅素子を2ケ用いて1つの素子を出力電圧波形の正の半周期、もう1つの素子を出力電圧波形の負の半周期に使用することで効率的に増幅することができる回路です。
その動作が押す係の増幅素子とと引く係の増幅素子とで構成されているように見えるので、プッシュプルアンプと呼ばれています。動作はA級、AB級、B級いずれでも可能です。
回路は複雑になりますが、大きな出力を取り出すことができ、歪も少ない方式です。現在市販されている半導体アンプの大半はこのタイプです。
● BTLアンプ
プッシュプルアンプよりも、さらに大出力を取り出すことができる方式です。回路はさらに複雑で、2組のプッシュプルアンプ用いてバランス接続としています。
動作はA級、AB級、B級いずれでも可能です。
ステレオ/モノラルを切り替えて使用するパワーアンプでは、ステレオモード時にはプッシュプルアンプ、モノラルモード時にはBTLアンプで動作するものがほとんどです。
また、これらの回路方式でさらにパワーを得るために同じものを並列に接続する方法がありますが、その特徴が大きく変わることはありません。
真空管パワーアンプは『3極管シングルアンプ』や『ビーム管プッシュプルアンプ』のように呼ばれます。これは最終段に使用されている真空管の種類を指しています。それぞれの真空管の特徴は以下の通りです。
● 3極管
古典管と呼ばれる1930年までに設計されたものが多く、主にシングルで使用されます。小出力です。
近年では復刻されたものもありますが、当時の状態の良いものもも復刻されたものもいずれも高価です。構造が単純で外部からフィラメントの光が良く見えます。
本来、単純なシングルアンプ用として設計れた真空管ですので、自作派にも人気です。その音質に人気があるというよりは、希少性や懐古趣味、見た目の派手さといった要素が大きいのではないでしょうか。
海外では古典的な3極管を使用し現代のオーディオシステムに適応するアンプも販売されていますが、同程度の性能のアンプを半導体アンプの10倍以上の価格です。
● 4極管・5極管
多極管とも呼ばれ、AB級プッシュププルアンプとして多数の真空管をパラレル(並列接続)とし、NFBをしっかりかけて使うと、現代の半導体アンプに匹敵するアンプにもなり得ます。
反面、そこまでするなら、半導体アンプを使用すれば良いという意見も。小出力の多極管アンプは安価で、とにかく真空管アンプを使ってみたいということであれば・・・というアンプです。
● ビーム管
多極管にビーム構成電極が追加された構造で、真空管としは最も進んだ真空管です。大出力、低インピーダンスの真空管アンプが実現可能です。
真空管アンプとしは最もおすすめできますが、それでもコスパは半導体アンプよりかなり悪くなります。
現在でも趣味としてのオーディオでは真空管アンプが使用されることもありますが、音楽を高音質かつ、出来るだけ低コストで楽しみたい場合には、真空管アンプの優先順位は低いと言わざるを得ません。
NFBはNegative Feed Backを略したもので、負帰還を意味します。
出力の一部を逆相して入力に戻す事で出力インピーダンスを低下させ、周波数特性を広帯域化し、歪みやノイズを減少させる効果があります。
こう書くと難しく聴こえるのですが、パワーアンプの中に小さな人が入っていて出力を監視し、常に一定の状態になるようパワーアンプのボリュームを微調整してると考えれば良いでしょう。
出力をたくさん使ってしまって出力電圧が落ちてきたら調整して上げる。インピーダンスが16オームある古いスピーカーに交換したとき出力電圧が上がり過ぎないよう下げる・・・というような役目です。
NFBはパワーアンプの特性を根本的に改善しているわけではなく、見た目の特性を改善するお化粧のようなものです。
この辺りがNFBを否定する人を作り出しているのかもしれません。
また、『出力の一部を入力に戻している』という点もうさん臭く感じるのかもしれません。
もし、出力にノイズが混入すると、ノイズは入力に戻り増幅され更に大きなノイズとなって出力されるのではないか・・・という懸念が感じられるのでしょう。
しかし、そういった事をすべて帳消しにしても良いような特性の向上が見込めるのがNFBです。現在販売されているパワーアンプのほぼ全てにNFBが使われています。
現代のパワーアンプはNFBなしでは考えられないと言っても良いでしょう。
稀にNON-NFB(無帰還)のパワーアンプがあります。しかし、ダンピングや周波数特性、ノイズレベルが現代のアンプとして満足のいくレベルなのか疑問です。
NON-NFBアンプでNFBアンプと同等の特性を得るためには数倍のコストが必要になります。そのコストを別の部分にかけたほうが結果的には全体のクオリティーアップにつながります。
音楽再生は最終的にスピーカーから出てくる音のクオリティーで判断されるべきです。
こだわりを持つことは良い事なのですが、オーディオシステムの一部だけを問題視し、システム全体のクオリティが低下しないように気を付けなければなりません。
増幅作用をもつ真空管は1906年に発明され、1914年に量産化されました。100年以上の歴史のある電子パーツですが、その構造は当時も現在も大きくは変わっていません。
人気があるのは直熱3極管(2A3やWE300B等)ですが、ここでは構造が判りやすい傍熱型3極管を例に書いてみたいと思います。
真空管の回路図は上図のようになります。カソードにマイナス、プレートにプラスの電源を接続します。カソードとプレートは離れたところにある金属板ですので、このままでは電流は流れません。
カソードの下にヒーターがあります。これは暖房機のヒーターと同じ意味でカソードを温めています。動作中の真空管が熱いのはそのためで、このときヒーターは電球のように光ります。
この光が外に漏れだしたのが真空管特有の橙色の光です。中学生の理科に出てきたと思いますが、『電流が流れる』というのは回路図を理解するための便宜的な考え方で、実は電子の移動です。
気をつけなくてはいけないのは、電流はプラス極からマイナス極へ流れますが、電子はマイナス極からプラス極へ移動すると考えられています。
真空管内部ではプレートからカソードへ電流が流れると表現されますが、実はカソードからプレートへと電子が飛んでいるのです。
カソードから電子が飛び出すためにはエネルギーが必要です。その熱エネルギーを供給しているのがヒーターということになります。
ここまでを整理すると真空管の動作状態は温められたカソードからプレートに向かって電子が飛んでいる状態・・・なのですが、回路図をよくみるとプレートカソードの間にグリッドという電極があります。
グリッドはその名の通り金属の網です。電子はこの網をすり抜けてプレートへ飛んでいきます。
しかし、グリッドに僅かにプラスの電位を加えると、カソードからプレートへ飛んでいく電子が大幅に減ってしまうのです。
つまりグリッドに僅かな音楽信号を入力するとプレート電流が大幅に変化する・・・これを増幅作用といいます。
● カーボン抵抗
カーボン抵抗は炭素の皮膜をセラミックの上に蒸着させたもので、安価ですが温度特性はよくありません。温度によって抵抗値が変化するので機器に電源を入れてから完全に暖まるまで比較的長いエージングが必要です。
音色は暖かめでソフト。デジタル機器にあえてカーボン抵抗を使用し、柔らかな音を演出するようなことも。
また、カーボン抵抗は湿気に弱く、古い海外製のカーボン抵抗を湿気の多い日本で使用することはおすすめできません。
● 金属皮膜抵抗
金属皮膜抵抗は合金の抵抗体を蒸着させた抵抗です。カーボン抵抗より温度特使は良く、精度も1%のものが一般的です。ゲイン調整やカットオフ周波数の調整等精度が求められる回路に使用されます。
価格はカーボン抵抗の10倍程度で高価です。音質はシャープで歪感が少なく、硬質です。発熱が少ない回路では金属皮膜抵抗を選んでおけば無難です。
● 巻線抵抗
巻線抵抗は電源回路やスピーカーのネットワークに使用されます。容量は1wから20w程度が一般的。
構造は瀬戸物の筒の上に金属線が巻かれており0.1オームといった小さな抵抗値でも正確に作ることができます。
反面大きな抵抗値の製作は困難。太い金属線が巻かれているため瞬間的に大電流が流れるような用途に向いています。音質はカーボン抵抗や金属皮膜抵抗に比べると歪感は多く、高音質とはいえません。
● セメント抵抗
セメント抵抗もまた発熱が大きい回路に使用します。構造はセメントの箱(現在のものは他の材料が使用されている場合が多いですが)の中に抵抗体を封入してあり、抵抗値の高いものでも製作可能です。
ボディを放熱器や筐体に固定し効率よく放熱することがで、恒常的に発熱しているような用途に向いています。
音質はカーボン抵抗や金属皮膜抵抗に比べると歪感は多く、高音質とはいえません。
コンデンサーは種類が多く、用途に対して向き不向きがあり、とても神経質なパーツです。
抵抗は計算値と実測値がほぼ同じですが、コンデンサーはなかなか思い通りになりません。
● セラミックコンデンサー
セラミックコンデンサーは2枚の金属板をセラミックで挟み込んだ構造で教科書に書いてあるような構造です。
高周波特性が良く音質もナチュラルでNFB回路や発振止め等に使用します。
数千ボルトといった高耐圧のセラミックコンデンサーも存在します。しかし、大容量になると非実用的なサイズになってしまいます。
また、誤差は大きく、チャンネルデバイダーの周波数を決定する・・・というような用途には向きません。
● フイルムコンデンサー
フイルムコンデンサーには、スチロールコンデンサー、ポリエステルコンデンサー、メタライズドフィルムコンデンサー等多くの種類があります。
それぞれに特徴があり、ある回路上で、ある条件で、ある環境で使用した場合高音質となるコンデンサーはありますが絶対的な高音質コンデンサーというものはありません。
フイルムコンデンサーは絶縁フイルムの両面に金属が蒸着された構造です。大容量になるとフイルムが長くなるので、これを巻き上げ小型化しています。
そのため筒状になり、高い周波数でインピーダンスが上昇するというコイルとしての特徴を持つようになります。
● 電解コンデンサー
電解コンデンサーは大容量で安価ですが、決して高音質ではありません。その特性は多くのコンデンサーの種類の中では最悪と言って良いでしょう。
しかし、100マイクロファラッドを超えるような大容量コンデンサーは電解コンデンサーしかなく、オーディオ機器の内部で最も多く使われているコンデンサーです。
電解コンデンサーと上手に付き合っていくことが音の良いアンプにつながるのです。
並列にフイルムコンデンサーを接続し、高周波特性の改善することで良い結果が得られることがあります。
積層コンデンサーという種類のコンデンサーがあります。
これはセラミックコンデンサーやフイルムコンデンサーのような素材や方式による分類ではありません。セラミックコンデンサーにもフイルムコンデンサーにも積層コンデンサーは存在します。
積層コンデンサーとは構造上の分類です。
一般にコンデンサーとは2枚の平行した金属板を電極とする電子部品です。金属板の面積が大きいほど、金属板間の距離が狭いほどそのコンデンサーは大容量になります。
そのため大容量のフイルムコンデンサーやセラミックコンデンサーはボディサイズが大きくなってしまいます。
そこで面積の大きな金属板を小さくカットし何枚も地層のように重ねていくことで小型で大容量を実現したのが積層コンデンサーです。
一般的な100v耐圧0.1マイクロファラッド程度のセラミックコンデンサーは1センチ程の大きさになりますが積層セラミックコンデンサーでは10倍の容量の1マイクロファラッドのものがわずか4mm程度。
スマホやノートパソコンに使用されているチップ型のコンデンサーはその多くが積層コンデンサーです。
積層コンデンサーはスペースファクターが良いだけでなく、フイルムコンデンサーでは電極がコイル状に巻かれませんのでインダクタンス分がほとんどなく高周波域でのインピーダンスの上昇がありません。
この状態は理論上のコンデンサーの特性に近い理想的なコンデンサーとして動作していると言えます。
また、コンデンサーが小型化できるとそこに受ける電磁ノイズ(いわゆる電波ノイズ)の影響も小さくすることができます。コンデンサーに限らず電子部品や配線材は電磁波を受信するアンテナとして動作します。
アンテナは大きいほど受信感度が上がり、電磁波をたくさん受信することができます。フォノイコライザーアンプのように微小信号を取り扱う回路では僅かなノイズであっても音質が大幅に劣化する可能性があります。
できるだけ小さなパーツを使用して小さく作り上げることでローノイズのフォノイコライザーアンプになります。
半導体は音楽信号を増幅するだけでなく多くの用途があります。
● ダイオード
2つ(ギリシャ語でdi)の電極をもつことからこのように呼ばれています。半導体としては最もシンプルなものです。
ダイオードにはたくさんの種類がありますが、最も身近なのは発光ダイオード(LED / Light Emitting Diode)でしょう。
パイロットランプやディスプレー、懐中電灯までその用途は広範囲です。また、定電圧ダイオード(ツェナーダイオード)も電源回路等によく使われます。
● トランジスター
Transfer of signal through a varister(半導体整流素子信号変換器)を略したものと言われています。
当初トランジスタはリレーや真空管によって構成されていたコンピューターを小型化、低消費電力化するための素子として開発されました。
振動に強い点が注目され、軍用無線機や携帯用ラジオに使用されるようになり、その後大電力ををコントロールできるものができるとパワーアンプにも使われるようになりました。
● FET
電界効果トランジスター(Field Effect Transistor)です。その特性が3極真空管に似ていると言われておりパワーアンプの出力段に使用される半導体として人気があります。
かつては壊れやすく、静電気にも弱い、素子でしたが最近はずいぶん丈夫になりました。インピーダンスはトランジスターの方が低く、パワー感を求めるならトランジスター、繊細さを求めるならFETと言われています。
● IC
集積回路(Integrated Circuit)です。集積された回路はすべてICです。オペアンプといったアナログデバイスも、デジタルデバイスであるCPUもICの一種です。
現在は機能ごとに専用ICが多く開発されており、汎用のICは少なくなりました。
コイルはコンデンサー以上に扱いの難しい電子パーツです。
電線が螺旋状に巻かれてさえいれば、それは電気的にはコイルとして動作します。
シンプルな構造であるために電子パーツのリード線や
電子パーツを取り付けるプリント基盤の銅箔部分ですら『意図しないコイル』になりうるのです。
コイルは周波数が高くなるほどインピーダンスが上昇するという特性があります。
高音の信号ほど通り難くなるという事を意味し、
これを利用してスピーカーシステムではネットワーク回路としてウーハーとツィーターに音域を分けたり、
電源回路で高周波ノイズだけを減少させるような用途に使用されるのですが、
増幅回路では『意図しないコイル』によって高域が減衰して
周波数特性が悪化するというような事も起こり得るので注意が必要です。
また、コイルは小型化が困難な電子パーツです。
スペースに余裕があるオーディオコンポーネントでは使用されていますが、
スマホやノートパソコンといった小型化が必須の家電製品ではあまり使用される事はありません。
さらに、コイルを使用するときには周囲にある程度のスペースが必要です。
コイルは電磁波の影響を受けやすいパーツで、AMラジオではアンテナとして使用されるほど。
コイルの周囲の電子パーツが密集していると、それらが発生する電磁波の影響も受け易くなるため
実装密度を上げることができません。
こういった設置上の問題もまたコイルを使用した機器の小型化を阻害する要因のひとつです。
こういったコイルの問題を解決するために、
コイルを使用せずに半導体、抵抗、コンデンサー等を用いてコイルの特性を再現させる手法も用いられます。
これはシミュレーテッドインダクタ(擬似コイル回路)と呼ばれ、
理想的なコイルの特性が得られるためパラメトリックイコライザーやグラフィックイコライザーで使用されています。
またシミュレーテッドインダクタは現実では製作が難しいインダクタンスが巨大なコイルも実現させることが可能です。
音量調節には連続可変の音量調節器のボリュームとステップで変化する音量調節器のアッテネーターがあります。
本来の意味は、ボリュームは『音量』で、アッテネーターは『減衰器』ですが、オーディオの世界ではこう呼ばれることが一般的です。
それぞれにメリット・デメリットがあります。機能別に見ていきましょう。
● ギャングエラー
音量調整のツマミが無音の位置に近く僅かしか音が出ていない状態のとき左右の音のバランスが崩れる現象です。
ボリュームのみの発生します。アッテネーターでは起こりえません。
● 連続可変
ボリュームは連続可変することが可能ですが、
アッテネーターは段階的に変化するためちょうど良い音量に微調整できないことがあります。
● 音量を一定にする
コンポーネントやリスニングルームの試聴や測定を行うときに音量を一定にしたいことがあります。
このようなときアッテネーターは必ず同じ音量に調整することができます。
● 減衰カーブが自在
音量調整のツマミは右に回すほど音が大きくなりますが、それは回した角度に正比例して大きくなるのではありません。
人間の耳は小さな音が聴き取りにくいので小さな音では回転角に対して音量は大きく変化し、大音量時はさほど変化しません。
これをAカーブ特性といい、音量調節に使用される可変抵抗器はAカーブ特性が使用されます。
アッテネーターではAカーブ特性はもちろん、1dBステップで変化させたり、特殊な特性のカーブにすることができます。
● 高音質
一般にアッテネーターはボリュームよりも高音質です。
これは固定抵抗を使用することができるためです。
トランスは電源電圧を変更したり、真空管アンプにおいて真空管とスピーカーのインピーダンスの適正化を行うための電子パーツです。
トランスは100年前から構造に大きな変化はありません。そして小型化が非常に困難な電子パーツです。
● 電源トランス
大出力のパワーアンプに使用するような大容量の電源トランスは大型にならざるをえません。
トランスは低い周波数で使用するほど大型のものが必要になります。
同じ大きさのトランスであれば高い周波数で使用した方が大きな電力を伝送することができるのです。
東日本では電源周波数は50Hz、西日本は60Hzと西日本の方が電源周波数が20%高いため、
同じ電源トランスを使用していても西日本のほうが20%多くの電力を取り出すことが可能です。
このことから同じパワーアンプであっても西日本の方が高音質になると言われています。
スイッチング電源回路で使用するトランスでは数十キロヘルツというさらに高い周波数になりますので、
たった親指の先ほどの大きさのトランスで数百ワットの電力を取り出すことが可能です。
そのため、最近ではスイッチング電源を使用するパワーアンプが多くなってきました。
● 出力トランス(OPT)
真空管アンプの出力トランスも同様に低い周波数で使用するほど大型のものが必要になります。
真空管ラジオの出力トランスは200Hz程度までしか再生しないような設計ですので小型のトランスが搭載されていますが、
本格的な真空管アンプでは10Hzくらいまで再生できる出力トランスが搭載されています。
このような出力トランスは幅120mm、奥行120mm、高さ160mmほどの大きさがあり非常に高価です。
また、安価な小形真空管アンプでは数センチ程の小型の出力トランスが使用されていますが、
こういった出力トランスでは100Hz程度までしか再生することができず、重低音は望めません。
オーディオコンポーネント間を接続する端子はアナログの音楽信号が伝送されていますのでそのクオリティーは重要です。
特にRCA端子(ピンジャック)は微小信号が伝送されるため、端子表面の酸化や汚れが音質大きな影響をあたえます。
そのため表面にはメッキが施され、酸化を防いでいます。
● 無メッキ
メッキを嫌う一部のマニアがいます。
無メッキは使い始めたときは確かに良いのですが、数か月で表面が酸化し急激に音質が劣化します。
RCAジャックのホット側の端子は露出しておらずクリーニングは困難です。
● ニッケルメッキ
酸化に対してそれほど強力な耐性があるわけではありません。
安価で、RCA端子には最も多く使用されているメッキですが、ニッケルが磁性体のため音質が悪くなるという人も。
● 金メッキ
酸化に強く、非磁性体です。しかし、金は柔らかい金属なので抜き差しでメッキ表面が削られていきます。
そのため頻繁に抜き差しをする端子には不向きです。
複数のパワーアンプを所有して、取り換えて音質の変化を楽しむというような用途にはおすすめできません。
また、金メッキは金属に直接メッキすると美しい金色にならず、くすんだ黄土色のようなメッキになってしまいます。
そこで下地に輝きのある別のメッキを施し、その上に金メッキをかけます。
安価な金メッキでは下地にニッケルメッキが使用され、音質を重要視する場合には銀メッキが使用されます。
銀メッキが使用されている端子は高価で、一般用として販売されることは稀です。
● ロジウムメッキ(画像のRCA端子)
ロジウムは白金に近い希少金属です。非磁性で、酸化しにくく、硬いメッキです。理想的なメッキですが、半田が乗りにくく
大型のこてがないと半田不良が起きる可能性があります。
また、高価で、コストパフォーマンスを考えて使用する必要があります。当社ではカスタマイズで使用しています。
スピーカー端子には多くの種類があります。
ここではでは、2回に分けて代表的なスピーカー端子を紹介します。前編です。
● 巻締端子・穴あき端子
巻締端子は電線の導体部分を端子に巻き付けて締め込むもの、
穴あき端子は穴に導体部分を通して締め込むもので電線のシース(被覆)を剥くだけで取り付け可能です。
1970年代以前の古いアンプのスピーカー端子に多く使われています。
当時は太いスピーカーケーブルは使われていませんでしたので端子の強度が低く、太いケーブルを使用すると端子が破壊される可能性があります。
この端子を使用する場合は必ず0.75スケア以下の細いスピーカーケーブルを使用してください。
● プッシュ式端子
ボタンを押してシースを剥いた電線を差し込むだけで接続できます。安価な機器に多く使われています。
このタイプの端子は使用できるケーブルの太さが指定されています。
太すぎると穴に収まらず、細すぎると抜けやすくなります。また接触抵抗が大きく、高音質とは言えません。
● 圧着端子用端子台
真空管アンプに使用される事が多い端子です。
真空管アンプはスピーカーのインピーダンスによって接続する端子が異なるため、端子が連なった端子台を使用します。
この端子は電線に圧着端子を取り付けて使用します。電線を直接接続すると短絡の原因となりますのでおすすめできません。
また圧着には専用の工具が必要です。
● バナナプラグ専用端子
バナナプラグは嘗ては抜き差しを頻繁にする場合に使用されていましたが、最近では高品位のバナナ端子も販売されており、
スピーカー端子の主流といっても良いでしょう。
古くから音質には定評があり、ヨーロッパのアンプで多く使用されています。
ムジカのフラグシップモデル雷鳥7シリーズでも使用されています。
スピーカー端子には多くの種類があります。
ここではでは、2回に分けて代表的なスピーカー端子を紹介します。後編です。
● 陸軍端子
外観は穴あき端子に似ていますが、電線の直接接続と同時にバナナプラグが使用できるようになっています。
旧軍で電鍵(モールス信号用のキー)を接続するために使用されていたため陸軍端子と呼ばれています。
現在でも多くのアンプやスピーカーで使用されています。
多くの接続方法が可能で、しかも、バナナプラグと圧着端子を同時に接続するといったことも可能と、とても便利ですが、
どの接続方法に対しても十分なクオリティーを持っている端子は稀です。
● フォーンプラグ
業務用のスピーカーまたは、楽器用のスピーカーに使用されています。
スマホ等でヘッドホン端子に使用されている直径3.5mmのステレオミニジャックではなく、直径6.5mmのモノラルフォーンジャックです。
嘗て電話の交換局で接続用に使用されていましたが、2~5Aの電流が扱えるためスピーカー端子として転用されました。
フォーン端子は抜き差しする瞬間に接点同士が短絡することがありますので、必ずアンプの電源を切った状態で抜き差ししてください。
● スピコン
スピコン(speakON)は1975年創業のリヒテンシュタイン侯国に本拠を置くノイトリック社によって開発された業務用スピーカー端子です。
40Aの高電流に対応しており、スピーカーを何台も連接して接続するような場合でも使用することができます。
また、ロック機構があり、不意に抜けてしまうようなこともありません。
スピコンは業務用のPA用スピーカー端子としては広く普及していますが、専用のプラグを使用しなければならないため民生機器にはほとんど使用されていません。
筐体とはオーディオコンポーネントが収められているケースを指します。
広義にはヒートシンク(放熱器)や操作のためのツマミやボタンが含まれることもあります。
ここでは、2回に分けてムジカで使用されている筐体材料を紹介します。その前編です。
● ミガキ材(冷間圧延鋼材)
塗装をした場合に美しく仕上がるように表面が滑らかになっている鋼板です。
鋼板とは鉄に炭素やマンガン等を添加し、強度や加工性を向上させた鉄板。
嘗て鋼板は磁石に引付く磁性材料であるため、トランス等の影響を受けやすく、
発生した渦電流がノイズの原因となるためオーディオコンポーネントの筐体には敬遠されていました。
近年では漏洩磁束を遮断する磁気シールドとしての特性が注目されています。
● ボンデ鋼板(SECC)
表面に亜鉛メッキが施されたサビに強い鋼板です。
塗装しないで使用する機器の内部の金具や底板に使用されます。
『ボンデ鋼板』は一般名詞のように使用されていますが、これは新日鉄の商品名です。
他の鋼板メーカーでは電気亜鉛めっき鋼板と呼ばれています。
● アルミ材
非磁性体の筐体材料として広く使用されています。
軽量ですが、強度は鋼板に劣ります。熱伝導性が高いためヒートシンク(放熱器)にも使用されています。
アルミ材は加工方法によって、硬く切削加工に適したものや、粘り気がありプレス加工に適したもの等があります。
アルミ材は表面加工がしやすいためパネル等に使用され、美しく見える加工が施される事があります。
梨地加工はサンドブラストとも呼ばれアルミ材に砂や小さな鉄球をぶつけてマットな表面にしたもの、
ヘアライン加工はライターやアクセサリーにも施されている加工で細かな筋状のキズをつけたもの、
ハンマートンは金槌で叩いたような無数のへこみをつけたもの等多くのバリエーションがあります。
筐体とはオーディオコンポーネントが収められているケースを指します。
広義にはヒートシンク(放熱器)や操作のためのツマミやボタンが含まれることもあります。
ここでは、2回に分けてムジカで使用されている筐体材料を紹介します。その後編です。
● 真鍮
黄銅やブラスとも呼ばれます。銅と亜鉛の合金で、5円玉やトランペット等の管楽器にも使用されています。
電気抵抗値が低いためオーディオコンポーネントでは電流が流れるコネクター部分に使用されます。
また、加工性が良く、複雑な形状のものを作ることができるので、
ボリュームのツマミやスイッチのノブにも使われることもあります。
● ステンレス
鉄と炭素、クロム、ニッケル等の合金で錆びにくい素材です。
キッチンのシンクやスプーン・フォークに使用されています。
美しい鏡面仕上げが可能で、オーディオコンポーネントの外装として使用されることもありますが、
硬い素材のため加工費は高額です。ムジカではAirone-priやAirone-u&bに使用されています。
● 銅
柔らかく、加工性の良い金属です。電気抵抗は銀に次いで低く、電線や電子パーツに使われています。
熱伝導性の高さを活かして鍋に使用されることも。
オーディオコンポーネントではパワートランジスターを取り付けるヒートシンクを兼ねた導電バー等に使用されます。
● リン青銅
銅とスズの合金である青銅にリンを加えることでバネ性に優れた素材にしたものです。
オーディオコンポーネントではネジの緩みを防止するスプリングワッシャーに使用されています。
導電性が高いのでバナナプラグのようなバネ構造によってその接続を保持するようなコネクターに使われることもあります。
特定のジャンルの音楽のみを楽しむためにオーディオシステムを構築することはとても贅沢なオーディオの楽しみ方です。
それぞれのジャンルには特徴的な音があり、その音が引き立つ音創りはオーディオファンの腕の見せどころです。
ここでは、2回に分けてジャンル別セッティングを紹介します。その前編です。
● クラシック
クラシックはオーケストラように編成の大きな曲もありますし、ピアノソナタのようなひとつの楽器で演奏される曲もあります。
曲調もさまざまです。そのためクラシックの再生は周波数特性がフラットで広帯域のセッティングが求められます。
歪やノイズが少ない音であることも大切です。また、左右方向、奥行方向、上下方向に大きく広がったサウンドステージが好まれます。
こういったクラシック向けのスピーカーは音場再生に優れたトールボーイ型が有利です。
左右の間隔を大きくとり、軸をリスナーに向けたセッティングが良いでしょう。
スーパーツィーターを付加し広帯域化と高音域での低歪化を狙うのもおすすめです。
● ジャズ
ジャズファンには迫力があり、ダイナミックなライブ感を感じさせるようなセッティングが好まれます。
サックスや女性ボーカル等好みの楽器の帯域が頭ひとつ出ているようなセッティングをされているジャズファンに出会うことがあります。
これはその帯域の音圧だけが高いという場合もありますが、
他の帯域よりもスピード感があるスピーカーやクリアに聴こえるアンプを選ぶという手法で目立たせるということも可能です。
高域を目立たせたいのであれば、ホーン型のツィーターを使用したスピーカーシステムを選んだり、
低域を目立たせたいのであればサブウーハーを追加するのも良いと思います。
中域の音圧を上げるセッティングを行うと歪っぽい音になりがちです。
こういった場合はアンプ等で低歪化を図ったうえで音圧を上げるとナチュラルな目立ち方をすることができます。
特定のジャンルの音楽のみを楽しむためにオーディオシステムを構築することはとても贅沢なオーディオの楽しみ方です。
それぞれのジャンルには特徴的な音があり、その音が引き立つ音創りはオーディオファンの腕の見せどころです。
ここでは、2回に分けてジャンル別セッティングを紹介します。その後編です。
● ポップス
ポップスは小編成の曲が多く、リズムが明確です。
そのためポップスの再生はベースやドラムといった低域を丁寧に再生するセッティングが求められます。
ここで注意しなくていけないのはベースやドラムにとって大切なのは20~60Hzの『超低域』ではなく、
そのもう少し上の『低域』であるという点です。
ベースやドラムの基音はそれほど低くはないのです。
低域が足りないと感じるのであればスピーカーと壁との距離を縮め、
低域が多すぎるのであれば、バスレフポートが床から離れるようにインシュレーターで高さを稼ぐことも有効です。
また、ポップスの再生にはスピード感のあるスピーカーやアンプを選ぶことをおすすめします。
スピーカーは30cmといった大口径のスピーカーよりも、
16cm位の口径のウーハーが2発使用されているようなスピーカーシステムの方がスピード感が得られます。
● 電子楽器
電子楽器には楽器本来の音はありません。
スピーカーで再生された音が楽器の音です。
一般的な楽器では楽器の生音を目安に調整することが可能ですが、電子楽器では楽器の音を想像して調整することになります。
それはかなりたいへんなことです。
ひとつの手法としてヘッドホンを使用する方法があります。
ヘッドホンから再生された音とスピーカーから再生された音を聴き比べながら調整していきます。
ヘッドホンはSONY MDR-CD900STのような密閉型で癖のないものを使用してください。
このヘッドホンは放送局やスタジオでは定番で使用されています。
癖のない音作りで、音質チェックというような用途には最適です。
ヴォーカルの音像は多くの場合左右のスピーカーのセンターで再生されます。
ヴォーカルは左右どちらかに僅かでも寄っているとなぜか耳につくものです。
もちろん、音源が寄っている可能性もありますが、多くの音源を聴いても同じように聴こえるのであれば、その原因の多くはスピーカーの周りの環境です。
ブックシェルフスピーカーをお使いであれば、スピーカースタンドは左右同じものが使用されていなければなりません。
右側のスピーカーは本棚に、左側のスピーカーは机の上に・・・というようなセッティングは、
右側のウーハーの口径は15cm、左側のウーハーは10cmというのと同じで、これではボーカルはセンターに定位しません。
また、スピーカーの設置状態が左右同じでも、スピーカーの右側は壁、左側は窓というようなこともあるでしょう。
その壁や窓がスピーカーから50cm以内にあるならば要注意です。
窓や壁による反射音で左右のバランスが崩れます。このような場合には壁や窓から距離をとるのが良いのですが、
距離が取れない場合は、両側に同じ厚手のカーテンを取り付けるという方法もあります。
床もまた重要です。左右のスピーカーとリスナーを結んだ三角形の中にソファーやテーブル等がある場合も注意が必要です。
この三角形の中には何もない状態が理想ではありますが、
どうしてもテーブル等を置く必要がある場合はスピーカーの真ん中になるように設置しなければなりません。
ヴォーカルのセンター定位は僅かにずれただけでも耳は検出してしまいます。
リビングをリスニングルームとして使用している場合は難しいかもしれませんが、
その場合、ブックシェルフスピーカーであれば、
ツイーター下側になるように設置しツィーターが耳の位置の高さになるようにスピーカーの位置をかさ上げします。
高域は直進性が強く床の影響を受けにくいのですが、ウーハーは音が広がりやすいため床との距離をとることで影響を最小限にします。
ハイレゾ音源はCD等の一般的なデジタル音源よりも分解能が高く、広範囲の周波数帯域が収録されています。
そのためCDの再生では気にならなかった部分が気になるようになったり、思いもよらないノイズに悩むことも。
ハイレゾ音源を再生するためのセッティングについて考えてみましょう。
CDでは20KHzまでの再生を考えればよかったのですが、サンプリング周波数が192KHzのハイレゾ音源では100KHzの音楽信号が含まれています。
1KHzの再生音では、スピーカーの正面でも正面から外れた位置でも音圧はそれほど変わりませんが、音は周波数が高くなるほど直進性が強くなり、
20KHzではスピーカーの正面から30度ずれるだけで音圧は1/3に低下し、60度ずれると1/10になってしまいます。
そのためハイレゾ音源の再生ではスーパーツィーターを追加し正確にリスナーに向かって設置することが望ましいです。
また、スーパーツィーターが設置されている高さを耳の高さに合わせることも必要です。
ムジカの製品ではVerシリーズが相当します。
ハイレゾ音源では超低域の再生も大切です。CDには20Hz以下の超低域は収録されていませんが、ハイレゾ音源では20Hz以下の超低域が収録されていることも。
『ツァラトゥストラはかく語りき』冒頭のパイプオルガンが発するC0は16.4Hzですし、『1812年』の大砲の音は8Hzと言われています。
これらを正確に再生するためには本格的なサブウーハーを用いなければなりません。
簡易的なサブウーハーでは20Hz以下の再生は不可能です。
CDでは音の分解能は16ビットですが、ハイレゾ音源では24ビットが多く、中には32ビットのものも。24-16=8ビットの差があるのですが、
これは256倍の分解能に相当します。ハイレゾ音源はCDよりも1/256細かな音が収録されているのです。
このような細かな音を再生するためには電波ノイズや電源ノイズといった外来ノイズに強い機器を使用しなければなりません。
さらにはアコースティックな環境のノイズ=騒音も低く抑える必要があります。
静音型のエアコンにしたり、部屋の窓を2重サッシにする等の対策がとられることもあります。
円盤型アナログレコードは100年以上前に発明されその基本的な仕組みは現在も変わっていません。
その取扱いは神経質で設置場所や再生する環境の影響を受けやすいメディアです。
ここではアナログレコードを魅力的に再生するためのセッティングをご紹介します。
● ハウリングを起こさない
カラオケと同じように、ハウリングはアナログレコードでも発生します。
スピーカーで再生された音がレコードプレーヤーを振動させ、
カートリッジがピックアップする音に混入し歪やノイズを発生させます。
アナログレコードの場合この現象は主に低音で発生しますので低音がカートリッジに伝わらないようにすれば軽減可能です。
レコードプレーヤーとスピーカーの距離をとる、
ラックを丈夫で振動しにくいものに変える、
レコードプレーヤーにゴム系のインシュレーターを使用するもの有効です。
● 超高域は意外と出ています
ハイレゾの出現で100KHzまで収録されている音源もありますが、レコード盤も50KHz程度まで再生する能力があります。
カートリッジも60KHz程度まで再生するものが発売され、これらを組み合わせるとハイレゾ音源に負けない広帯域化が可能です。
しかし、オーディオコンポーネントのひとつが狭帯域であるとボトルネックになってしまいます。
フォノアンプ、プリアンプ、パワーアンプ、スピーカー全て広帯域なコンポーネントが必要です。
● アナログレコードの魅力は低音
アナログレコードのダイナミックで迫力ある低音はとても魅力的です。
しかし、部屋の形状や設置位置によってボンボン低音になることも。
こもってしまった低音はスピーカーのバスレフポートから過剰な低音が再生されている場合があります。
このようなときには台所用品のスポンジをポートが半分隠れるくらいはめ込んでみます。
改善度が低い場合はスポンジをポートの形状にカットしてはめ込みます。
さらにもう少し・・・ということでしたらタオルを円柱状に巻いて差し込んでみます。
自宅で映画を楽しむ設備をホームシアターと言います。
ホームシアターは音楽のみを楽しむピュア・オーディオとは
少し異なった再生方法と音質をもつシステムです。
ここではホームシアター特有のオーディオ・サラウンドについてご紹介します。
本来のホームシアターは巨大画面で映画を鑑賞するシステムを指します。
海外でもそういった意味で使われていますが、
日本ではモニターの大小よりもサラウンドが重視されたシステムと
考えられている方が多いようです。
サラウンドとは視聴者を囲むように設置された
複数のスピーカーで音を再生する音響システムで、
その歴史は古く1970年頃からSQステレオやCD -4といった方式が
開発されては消えていきました。
現在でも残っている5.1chはそのひとつで、
米国ドルビー社が映画用に開発した音響システムをスケールダウンしたものです。
5.1chは6つのスピーカーを使用します。
オーディオと同じ主となる左右2本のスピーカーに加えて、
主に人の声が再生されるセンタースピーカー、
後方からの効果音を再生する2つのリアスピーカー、
そして、低域を再生するサブウーハーです。
最近5.1chは2つの理由で流行らなくなっています。
ひとつは音響機器のクオリティーが向上したことです。
スピーカーやパワーアンプのクオリティーが向上し
位相や音場を正確に再生する事ができるようになってきました。
左右2チャンネルのスピーカーだけで十分な広がりや奥行感を感じることができます。
もうひとつの理由は安いスピーカーを6台使うくらいならば、
左右2台の性能の良い高級スピーカーに集約した方が高音質・・・ということです。
今ホームシアターは過渡期です。
ホームシアターでは映像と音響が交互にバランスをとりながら開発されていきます。
今後4Kの映像がYouTubeやサブスクで一般的になり、
60インチを超える大画面モニターが安価に出回るようになれば
それに見合う音響システムが必要とされ開発されていくでしょう。
3年後が楽しみな分野です。
インターネット上には無料で聴くことができる高音質の音源がたくさん配信されており、毎日更新されています。
しかも、これらの音源は特別な手続きをすることなく即日楽しむことができます。
ここでは動画配信サイトを中心としたインターネット上で音楽を楽しむためのセッティングをご紹介します。
YouTube等の動画配信サイトでは多くのミュージック・ビデオやコンサートを収録した映像や音源が配信されています。
動画配信サイトで配信するためだけに制作されたものや、歴史的な音源も多数あります。これらはなかなか聴くことができない貴重な音源です。
こういった音源はテレビやDVD等のメディアとは編集方法が異なることが多いようです。
テレビやDVDではダイナミックレンジや再生帯域に制限があるため、瞬間的な大音量に対してコンプレッサーを使用して圧縮したり、
コンサートホールの空調音や屋外での風による超低域をカットしたりという編集処理をしています。
動画配信サイトの音源ではこのような処理がされていないものも多く、
オリジナルの音源に近い音を聴くことができるという点ではオーディオファンとしては大歓迎です。
Wi-Fi環境が整った中で聴く動画配信サイトの音質は一般に考えられているよりもずっと高音質。
スマホだけで聴くにはあまりにもったいない音源です。
これらを余すことなく再生するためには高音質のD/Aコンバーターをおすすめします。
最近はスマホやタブレットであってもUSB接続ができるD/Aコンバーター や高音質なBluetoothレシーバーも発売されています。
これらを使用して本格的なオーディオシステムで再生するとCDよりも高音質の音源も。
さらに、出力に少し余裕のあるパワーアンプと低音域がよく伸びているスピーカーを使用するとさらに効果的です。
コンサート等の音源を楽しむためには左右のスピーカーの間隔を広めにとった上で、
スピーカーの向きを正確にリスナーの方へ向けることでステレオ感とライブ感が向上します。
アナログレコードについでカセットテープが復活しています。メジャーなミュージシャンがミュージックテープを発売したり、
海外では新製品のカセットデッキが発売されたといったニュースを耳にします。
昭和レトロブームの一角をなしているという側面もありますが、
オーディオファンにとっては録音可能な唯一のアナログメディアとして残ってほしいと思われている方が多いようです。
カセットテープが復活することができた背景には、
語学学習用や途上国で使用するために生カセットテープの生産が細々続いていたことや、
一部の業務用の用途でカセットプレーヤーの需要が続いたため
テープヘッド等のカセットテープでしか使用されない電子パーツが現在でも生産されていることが考えられます。
また、老舗のティアックとその業務用ブランドであるタスカムがカセットデッキの存続に積極的だったことも大きくプラスに働いたと思います。
復活したカセットデッキは80年代のカセットテープの全盛期とは少し異なる点もあるようです。
当時はノーマルテープ、クロムテープに加えてメタルテープが脚光を浴びていました。
高い周波数まで録音が可能でテープヒス(ノイズ)が少ない高音質のテープでしたが、
復活したカットデッキではメタルテープを使用できるデッキは少なく、使用できても再生のみです。
また、当時はテープヒスを抑えるためにノイズリダクションという仕組みがありました。
ドルビー社が開発したものが有名でtype Aは業務用、type Bは広くカセットデッキに搭載され、
type C はさらに高性能なノイズリダクションとして一部のカセットデッキに使用されていました。
復活したテープデッキでは概ねtype Bのみになっています。
テープデッキの現代的な特徴としてUSBデジタルアウト端子の搭載があります。
カセットテープの音をデジタルファイルとしてパソコンに落とし込む機能です。
長期間カセットテープを保存することは転写(巻き上げられたテープに音が移ってしまう現象)の問題があるため
思い出のテープをデジタルアーカイブする方も多いようです。