オーディオのための電子回路入門 3
電子回路の設計は本当に難しいものです。私は37年電子回路の設計をしていますが、次々と新しい技術やパーツが発表されますので それらを取り入れていくだけでもたいへんです。 かつて、初心者にも分りやすく解説された『初歩のラジオ』や『ラジオの製作』という雑誌があり 私も中学生の頃愛読していましたが、現在は休刊となっています。 オーディオのための電子回路入門はオーディオ機器で使用される電子回路の基礎についてエンジニアの視点から初心者の方にも判りやすく解説しています。 ムジカではオーディオ全般に関する入門書として新・オーディオ入門を公開しています。 『オーディオのための電子回路入門』は『新・オーディオ入門』より少しだけ専門的な解説を目指したいと思います。

フィルター回路というと特殊な電子回路のようですが、フィルター回路はほとんどの音響機器に使用されている一般的な回路です。
ここでは信号の周波数によって通過する電圧が変化するアナログフィルター回路について述べたいと思います。
●ローパスフィルター
ローパスフィルターは設定した周波数よりも低い周波数を通過させ、高い周波数は通過しないフィルターです。
ハイカットフィルターと呼ばれることもあります。
主な用途はスピーカーのネットワーク回路において、ウーハーに低域の音楽信号だけを供給したり、
電源ノイズフィルターにおいて高周波ノイズをカットするような場合に使用されます。
●ハイパスフィルター
ハイパスフィルターは設定した周波数よりも高い周波数を通過させ、低い周波数は通過しないフィルターです。
ローカットフィルターと呼ばれることもあります。
主な用途はスピーカーのネットワーク回路において、ツィーターに高域の音楽信号だけを供給したり、
フォノアンプにおいてハウリングの原因となる超低域をカットするような場合に使用されます。
●バンドパスフィルター
バンドパスフィルターは設定した周波数を中心に上下に決められた幅をもたせ、その間の周波数の間だけを通過させるフィルターです。
主な用途はスピーカーのネットワーク回路において、スコーカーに中域の音楽信号だけを供給したり、
グラフィックイコライザーにおいて特定のバンドを選択するような場合に使用されます。
●ノッチフィルター
ノッチフィルターは設定した周波数を中心に上下に決められた幅をもたせ、その間の周波数の間だけを減衰させるフィルターです。
主な用途は歪率を測定する場合に基本となる周波数を減衰させたり、
電源ノイズをカットするために50/60Hzのみを減衰させるというような使い方をします。

ローパスフィルターは設定した周波数よりも低い周波数を通過させ、高い周波数は通過しないフィルターです。
ハイカットフィルターとも呼ばれ、LPFやL.P.F.と表記されます。
ローパスフィルターはコイルとコンデンサーと抵抗の中から2つを組み合わせて作ることができます。
小信号に使用する場合はコンデンサーと抵抗で、大電力に使用する場合はコイルと抵抗、またはコイルとコンデンサーを組み合わせて使用します。
ローパスフィルターの特性を決定する主な要素は3つです。
●カットオフ周波数
ローパスフィルターではカットオフ周波数よりも低い周波数は通過し、カットオフ周波数よりも高い周波数は減衰します。
カットオフ周波数では信号電圧は-3dB(約71%)となります。
信号電圧が-3dBになる周波数をカットオフ周波数と呼ぶという方が実用的な考え方かもしれません。
単位はHz(ヘルツ)です。周波数が高くなるとKHz、MHz、GHzが使われることがあります。
●スロープ
カットオフ周波数よりも十分に高い周波数においてどれくらいの割合で減衰していくのかを表す指標です。
例えば、-6dB/octという表記であれば、周波数が1オクターブ上がると出力電圧は6dB下がることを意味します。
つまり、周波数が2倍になると電圧は半分になるということです。音響機器では-6dB/oct、-12dB/oct、-18dB/octが良く使用されます。
●Q
カットオフ周波数付近においてどれほど鋭く信号を分別できるかを表す指標です。
Qの値が大きいほど、カットオフ周波数から下の周波数をシャープに通過させることができるようになります。
Qの値が小さいと、フィルタの特性は緩やかになります。
音響機器ではあまり大き過ぎるQや小さ過ぎるQのローパスフィルターは使いにくいのでQは0.5から1の間で使われることが多くなっています。

ハイパスフィルターは設定した周波数よりも高い周波数を通過させ、低い周波数は通過しないフィルターです。
ローカットフィルターとも呼ばれ、HPFやH.P.F.と表記されます。
ハイパスフィルターはコイルとコンデンサーと抵抗の中から2つを組み合わせて作ることができます。
小信号に使用する場合はコンデンサーと抵抗で、大電力に使用する場合はコンデンサーとコイルを組み合わせて使用します。
ハイパスフィルターの特性を決定する主な要素は3つです。
●カットオフ周波数
ハイパスフィルターではカットオフ周波数よりも高い周波数は通過し、カットオフ周波数よりも低い周波数は減衰します。
カットオフ周波数では信号電圧は-3dB(約71%)となります。
信号電圧が-3dBになる周波数をカットオフ周波数と呼ぶという方が実用的な考え方かもしれません。
単位はHz(ヘルツ)です。周波数が高くなるとKHz、MHz、GHzが使われることがあります。
●スロープ
カットオフ周波数よりも十分に低い周波数においてどれくらいの割合で減衰していくのかを表す指標です。
例えば、-6dB/octという表記であれば、周波数が1オクターブ下がると出力電圧は6dB下がることを意味します。
つまり、周波数が半分になると電圧は半分になるということです。音響機器では-6dB/oct、-12dB/oct、-18dB/octが良く使用されます。
●Q
カットオフ周波数付近においてどれほど鋭く信号を分別できるかを表す指標です。
Qの値が大きいほど、カットオフ周波数から下の周波数をシャープに通過させることができるようになります。
Qの値が小さいと、フィルタの特性は緩やかになります。
音響機器ではあまり大き過ぎるQや小さ過ぎるQのハイパスフィルターは使いにくいのでQは0.5から1の間で使われることが多くなっています。

フィルター回路はスピーカーシステムのネットワークやフォノイコライザー回路のようにその減衰特性を積極的に活用する回路ばかりでなく、
主となる電子回路に付随して大切な役割を果たす『裏方』としての用途を担っていることもあります。
例えば増幅回路における帯域制限です。
パワーアンプを例に考えてみましょう。パワーアンプにどれ程の帯域が必要とされているのかは時代によって変化しています。
SPレコードの時代には50Hz~8KHz程度が再生できれば十分だと考えられていました。
当時のパワーアンプは真空管式であり広帯域の増幅が困難だったという理由もあると思います。
70年代、スピーカーの特性が良くなりトランジスターアンプが普及すると20Hz~20KHzが標準的な再生可能帯域となります。
さらに技術が発達し、DC~600KHzの増幅も可能となりました。
ところが増幅回路の広帯域化は良い事だけではありません。
40KHzを超える周波数ではさまざまな電磁波が飛び交っています。
100KHz~300KHzはインバーターエアコンやパソコンが発生する電磁波ノイズの帯域であり、
300KHz~600KHzはAMラジオ放送や船舶気象通報局等の無線通信に使用されています。
これらは電磁波ノイズとしてパワーアンプに侵入し、音楽信号と共に増幅されます。
これらはヒトの耳には聴こえない帯域ですが、増幅回路のパワーソースはこれらの電磁波ノイズによっても消費されてしまいます。
何も再生していないのに放熱器が熱くなったり、音楽信号の歪が増えるというような問題を発生させてしまうのです。
現在の多くの増幅回路では入力側にあえてハイカットフィルターを挿入し帯域を制限しています。
現代の増幅回路の設計は超広帯域の増幅回路にあえて帯域を制限するローカットフィルターやハイカットフィルターを使用しています。
『シンプル・イズ・ベスト』といって増幅に直接関係のない回路を抜き取ってしまう方がいます。
考え方としては間違っていないのですが、帯域制限用のハイカットフィルターを取り払ってしまうと重大な問題が発生することもあるのです。

フィルター回路はスピーカーシステムのネットワークやフォノイコライザー回路のようにその減衰特性を積極的に活用する回路ばかりでなく、
主となる電子回路に付随して大切な役割を果たす『裏方』としての用途を担っていることもあります。
前回、パワーアンプの超高域の帯域制限にフィルターを使用する例を挙げましたが、同様にフィルター回路は超低域にも使用されています。
デジタル音源の信号には超低域の信号が収録されていることがあります。
それは風の音であったり、車の振動であったりします。
マイクロフォンの性能が良くなり10Hz以下の信号も録音されてしまうのです。
アナログレコードではこういった超低域の雑音は音飛びや歪の原因になりますので、マスタリングの段階で必ずカットされていました。
デジタル録音ではアナログレコードのような制限はありません。
近年、インターネットでの配信のための収録も多くなり、とくにこういった録音では超低域の音が多く収録されています。
これらは音として聴くことはできませんが、スピーカーの振動板を無駄に振幅させ、
歪が増加したり、多くの無駄なパワーリソースを消費することになります。
これらの対策にはローカットフィルターを使用します。
また、アナログレコードの再生ではレコード盤の反りが問題になります。
音楽信号と共に10Hz前後の雑音が再生されてしまいます。
このレコードの反りによる雑音を除去するために使用するのがサブソニックフィルターです。
20Hz以下の信号を減衰させるローカットフィルターです。
嘗てプリアンプにはサブソニックフィルターをON/OFFするスイッチがありましたが、
最近では、特別な機能ではなくなり、フォノイコライザー回路に付随していることが多くなっています。
超低域のカットはオーディオアンプに必要な機能ですが、
この帯域をカットすることによって音場が狭くなったり、雄大さが失われてしまう場合もあります。
そのため、ローカットフィルターのカットオフ周波数とスロープは各オーディオメーカーの考え方が反映される要素になっています。

フィルター回路はスピーカーシステムのネットワークやフォノイコライザー回路のように
その減衰特性を積極的に活用する回路ばかりでなく、
主となる電子回路に付随して大切な役割を果たす『裏方』としての用途を担っていることもあります。
増幅回路には必ず電源が必要です。多くの場合、交流100vを直流に変換して電源としています。
最も基本的な電源回路は変圧回路、整流回路、平滑回路の3つの回路からなっています。
概念図としての回路図を掲載します。平滑回路としてコンデンサーだけが書かれていますが、実用回路ではさらに多くの電子パーツが必要です。
平滑回路は整流された電気をコンデンサーにため込み、必要なタイミングで放出する役割をもっています。
見方を変えると商用電源の50Hzまたは60Hz、
またはその高調波を通さないようにしているハイカットフィルターであると考えることもできます。
つまり、低い周波数は電源エネルギーとして増幅回路へ供給し、
高い周波数はノイズや歪の原因となりますので遮断します。
ハイカットフィルターにが信号線路に直列入るに抵抗が必要ですが、この平滑回路にはありません。
この直列抵抗の役割は『2025.11.16 ローパスフィルター』に解説していますが、
平滑回路では増幅回路に供給する電源エネルギーを最大限大きくするため、この抵抗を省略し
平滑回路ではトランスや整流器の内部インピーダンスに依存してフィルター回路を形成しています。
トランスや整流器の内部インピーダンスは非常に低く、その分巨大な容量のコンデンサーが必要になります。
平滑回路に使用するコンデンサーは容量が十分大きく、高域特性に優れ、ハイスピードなコンデンサーとする必要があります。
しかし、一般的に100マイクロファラッドを超えるコンデンサーの種類は電解コンデンサーしか選択肢がありませんが、
電解コンデンサーは高域特性は決して良くはありません。
そこで大容量を確保するために電解コンデンサーを用い、高域特性が良いフイルムコンデンサーやセラミックコンデンサーを並列に接続し、役割を分担する手法が用いられます。

フィルター回路はスピーカーシステムのネットワークやフォノイコライザー回路のようにその減衰特性を積極的に活用する回路ばかりでなく、
主となる電子回路に付随して大切な役割を果たす『裏方』としての用途を担っていることもあります。
ローパスフィルター回路はD/Aコンバーター回路においてもとても重要な回路です。
D/Aコンバーター回路はデジタル信号をアナログ信号に変換する回路です。入力側はUSBや光ケーブル、HDMI等様々な方式がありますが、
どの方式においても変換する途中の段階で図のような階段状の波形となります。
この階段状の波形の高さ方向の分解能はダイナミックレンジと呼ばれており、CDでは16bit、ハイレゾ音源では24bit以上あります。
16bitとは波形の一番電圧が高いところと、一番低いところの階段の数が2の16乗(65536)あるという意味です。
24bitでは2の24乗(16777216)にもなります。
階段状の波形の横方向の分解能がビットレートと呼ばれています。
CDでは44.1KHz、ハイレゾ音源では192KHzものハイビットレートのデーターも配信されています。
44.1KHzとは1秒間に階段の横方向が44100に分割されており、192KHzでは192000に分割されている状態です。
このように音楽信号はD/Aコンバーター回路中で変換中に一旦階段状の波形になるのですが、
この波形の階段の1段1段には図のように階段の角の部分が含まれています。
このまま再生すると角の部分が超高域のノイズとなってアナログ信号のクオリティを悪化させてしまいます。
そこで滑らかなアナログ信号になるようローパスフィルターを使用して角の部分を取り去るのですが、
ここでは-18dB/oct程度の高いスロープ特性をもったローパスフィルターが用いられます。
高スロープ特性をもったローパスフィルターが用いることで再生周波数の広帯域化を図っています。
しかし、高スロープ特性のローパスフィルターは音質に与える影響が大きいため
一部のD/Aコンバーターではアップサンプリング等の技術を活用し、音質の劣化が少ない低スロープ特性のロ-パスフィルターを使用することに成功しています。

フィルター回路はスピーカーシステムのネットワークやフォノイコライザー回路のように
その減衰特性を積極的に活用する回路ばかりでなく、
主となる電子回路に付随して大切な役割を果たす『裏方』としての用途を担っていることもあります。
電源からのノイズにお悩みの方の中には、電源ケーブルや電源アダプターにノイズ対策用のフェライトコアをお使いの方も多いかと思います。
フェライトコアの使用方法は簡単で電源ケーブルに挟むだけです。
価格も安く簡易的なノイズ対策として広く普及しています。
フェライトコアの樹脂の中にはフェライトと呼ばれる焼結された磁性体があり、鉄芯入コイルの鉄芯と同じ役目を果たします。
そのフェライトの中に電源ケーブルが貫通しているのですが、
これは鉄芯に対する巻き数1のコイルと考えることができます。
フェライトコアがノイズを吸収すると勘違いされている方もありますが、
そのようなことはなく、高い周波数の電流を通過させ難くしているに過ぎません。
電源回路にはストレーキャパシティと言われる潜在的な静電容量が存在します。
これがコンデンサーの役目を果たし、フェライトコアとストレーキャパシティの組み合わせでハイカットフィルターを形成しているのです。
フェライトコアには様々な特性のものがあり、数キロヘルツから効果があるものもあれば、
100キロヘルツ以上に効果が現れるもの等様々です。
除去したいノイズの周波数に合わせて選択することでより効果的にフィルターを形成することができます。
また、フェライトコアに電源ケーブルを複数回巻きつけるとインダクタンスが上昇しますので、
フィルターの効果を大きくすることが可能です。
こういった電源フィルターは使用するオーディオ機器によって効果的且つ、副作用を最小限にする使い方を考える必要があります。
プリアンプやフォノアンプといった前段機器には複数回巻いてノイズ除去を優先し、
パワーアンプには1回のみとしてレギュレーションやスピード感を優先させるといった使い方をするのが良いでしょう。

フィルター回路はネットワークやフォノイコライザー回路のようにその減衰特性を積極的に活用する回路ばかりでなく、
他の用途に使用している電子回路が結果的にフィルター回路を形成していることがあります。
プリアンプとパワーアンプを接続する場合にピンケーブルを使用します。
一般的なピンケーブルには同軸タイプのケーブルが使用されています。
同軸ケーブルは芯線を囲むように銅線をアミのように織り込んだシールドが配置されています。
芯線は信号回路に、シールドはグランドに接続され外来ノイズに強い信号ケーブルとなります。
アミのように織り込んだシールドは目を細かく織り込み隙間を少なくした方がより外来ノイズに強くなります。
この隙間を少なくするためにシールドを2重にしたり、アルミホイルとシールドを併用するといった手法が用いられます。
しかしこれらは芯線とシールドとの間の浮遊容量(ストレーキャパシティ)を増加させます。
つまり芯線とシールドの間にコンデンサーを接続したのと同じ状態になるのです。
また、電線には必ず抵抗が存在します。
直列に抵抗、並列にコンデンサーが接続された状態はハイカットフィルター回路そのものであり、
ピンケーブルを用いると高域が低下する可能性があるのです。
ピンケーブルの長さが1m以下の場合はあまり問題になることはありませんが、長いピンケーブルでは注意が必要です。
その場合は太いピンケーブルを使用すると改善されることがあります。
太いピンケーブルは芯線も太く、抵抗が少なくなります。
また、芯線とシールドとの距離が遠くなりますので浮遊容量も減少します。
その結果フィルター回路としてのカットオフ周波数が上昇し、高域への影響が少なくなります。
しかし、このようなピンケーブルは太いために取り回しが悪く、高価です。
むしろオーディオ機器の配置を見直し、少しでもピンケーブルを短くする方法を考える方が理にかなっています。
短い距離の接続に、長いピンケーブルを巻いて使用している方があります。
高級なケーブルを使用していても、短い一般的なケーブルよりも音質が悪化していることも考えられます。

フィルター回路はネットワークやフォノイコライザー回路のようにその減衰特性を積極的に活用する回路ばかりでなく、
他の用途に使用している電子回路が結果的にフィルター回路を形成していることがあります。
アナログレコードを再生するカートリッジの方式はいくつかあり、代表的な方式はMM型、MC型、MI型です。
MM型は安価なカートリッジとして普及していました。
MC型は高性能なカートリッジとして一世を風靡しましたが、現在ではあまりにも高価です。
MI型はMC型の欠点を克服した最新のカートリッジとして当社では標準的に使用しているカートリッジです。
MC型は出力電圧が低いためMC昇圧トランスやMC専用のフォノアンプを使用しなければなりません。
現在でもMC型だけが高音質だと思わせるような記事が掲載するオーディオ誌も多いのですが、
MC昇圧トランスも加えると30万円を超えることになり、高価なMC型のコストを更に押し上げています。
ところがこの昇圧トランスはカートリッジを狭帯域化する元凶ともなっています。
MC昇圧トランスは電気的にはローカットフィルターでもあり、ハイカットフィルターでもあります。
1980年代のアナログレコード全盛の時代に発売されたMC昇圧トランスは20Hz~20KHzの帯域がやっとというものが多く、
本来もっと広帯域であるアナログレコードの帯域を制限してしまっています。
現代の最新の素材を使用すれば10Hz~60KHzの広帯域なMC昇圧トランスを製造することは可能ですが、
MC昇圧トランスだけでなく、あらゆる音声帯域に使用するトランスの需要が激減し、コストパフォーマンスが著しく悪化したり、
技術そのものが廃れてしまっているという現実があります。
音声用トランスには電源用トランスとは異なる鉄芯が使用されますが、この鉄芯に販売中止が相次いでいます。
また、音声用トランスは僅かな振動も歪となりますので、しっかりと含浸する必要があります。
含浸とは鉄芯や巻線の隙間にニスやロウを浸透させる技術です。
僅かな隙間に浸透させるため真空状態にする等の特殊な技術も用いられてきました。
現在これらの技術を安価な量産トランスに使用することは困難になっています。

フィルター回路はネットワークやフォノイコライザー回路のようにその減衰特性を積極的に活用する回路ばかりでなく、
他の用途に使用している電子回路が結果的にフィルター回路を形成していることがあります。
オーディオ機器が増えてくるとノイズが問題になることがあります。
ノイズが出たらアースをつなげれば良いとしてオーディオ機器のアース端子というアース端子を細いケーブルでつなぐ方がいます。
一般的な解釈では、アースとは余分な電気を大地に返すというような実に曖昧な表現が用いられています。
アースにはいくつかの目的がありますが、どの目的を達成するためにアースを使用するのかが理解されていないことが多く、
『アースをとれば高音質になる』というような間違った考え方がはびこっています。
当社では音響機器に関してはアースは必要悪と考えており、『アースを取らなくても問題が発生しない』環境を作ることが理想であり、
どうしてもノイズが取れないから、『仕方なくアースをとる』という説明をしています。
洗濯機や電子レンジのアースは『感電の防止』が主目的であり、『ノイズの除去』ではありません。
そのため洗濯機や電子レンジのアース線は細く、長くなっており、接続さえされていれば問題はありません。
オーディオ機器のアースは『ノイズの除去』が主目的です。
中でもやっかいなのは電波ノイズやデジタルノイズといった高周波ノイズです。
高周波ノイズは数十キロヘルツから数メガヘルツに及びます。
こういったノイズは細くて長い電線でコンセントのアース端子に接続しても思ったような効果は得られません。
細くて長い電線がもつインダクタンス成分は高周波では大きなインピーダンスとなります。
仮に、プリアンプを大地アースに接続すると仮定した場合、
アースポイントから5mもの距離を1.25スケア程度の電線で接続するということは
高周波的には抵抗を直列に介してアースに接続されているハイカットフィルターと同じです。
これでは高周波ノイズを通過させることはできません。
オーディオ機器用のアースはできるだけ短くできるだけ太い電線を使用してください。

オーディオ機器において再生音にノイズが少ないことは音質向上の大きな要因のひとつです。
嘗てマークレビンソンが初のプリアンプを発表した際高音質で残留ノイズの少なさにはたいへん驚いたものでした。
レコード再生といえば『サー』というホワイトノイズや『ブー』というハムノイズが当たり前だった時代です。
残留ノイズが聴こえないのでプリアンプが壊れているのではないかと思い、再生してみてびっくりという方も多かったと思います。
これは『高音質且つ低雑音』ではありますが、改めて考えてみると『低雑音だったから高音質』だとも考えられるのではないかと思います。
ここ数年ムジカではアンプは低ノイズ化に取り組んでおり、多くの開発や実験をしてきましたので低雑音が高音質の理由だとひときわ強く感じるようになりました。
半面、低ノイズ化は僅かなノイズであっても悪目立ちします。
現代では嘗ては問題にならなかった外来ノイズにオーディオファンが注目することになりました。
しかし、その対策方法は技術的に理にかなったものとは言えず、十分な成果を上げていない場合も多いように思います。
外来ノイズには電源ラインから侵入する電源ノイズと空中から侵入する電磁波ノイズがあります。
電源ノイズ対策にはノイズフィルターやノイズカットトランス等多くのオーディオ専用の対策機器がありますが、
電磁波ノイズに関しては決定的なものはありません。
電源ノイズはオシロスコープやスペクトルアナライザーで簡単に観測することができますので対策も容易です。
電磁波ノイズは目にも見えず、簡易な測定器は不正確で、その環境によって大きく変化するため対策は困難を極めます。
また、オーディオ機器の設計者は音声や音楽を増幅する低周波増幅回路を専門としている方がほとんどです。
私は無線やラジオといった高周波回路からこの世界に入ってきましたが、低周波回路と高周波回路はその根底にある考え方が全く異なっているといっても良いでしょう。
電磁波ノイズ対策は高周波回路エンジニアの専門分野です。これも電磁波ノイズ対策を難しくしているのかもしれません。

無線技術士の必須科目に『空中線系および電波伝搬』があります。空中線とはアンテナです。これはアンテナと電波の伝わり方に関する科目です。
高周波畑のエンジニアしか勉強しませんが、オーディオにおける電磁波ノイズ対策のヒントになるものが多数あるように思います。
たとえば、この中には八木宇田アンテナというアンテナが出てきます。
一般的には八木アンテナと呼ばれておりテレビの受信用に屋根の上にあげられている図の右側のようなアンテナです。
現在の八木アンテナは高性能化のために複雑な構造になっていますが、基本的な構造は図の左側のようになっています。
赤色のエレメントは輻射器と呼ばれ電波を受けケーブルでテレビに信号を伝送するためのエレメントです。
緑色のエレメントは反射器です。輻射器を通り過ぎてきてしまった電波をもう一度輻射器に戻すことで感度を上げる役割です。
青色のエレメントは導波器といい、電波を輻射器に導くためのエレメントです。その数が多くなるほど電波を導きやすくなります。
オーディオのノイズ対策の視点で見た場合、注目したいのは各エレメントの長さです。輻射器の長さは概ね1/2波長です。
アナログ時代のテレビの1CHは90~96MHzでしたのでその波長は300÷90=3.3m 1/2波長では1.6m程でした。輻射器に対して反射器は長くなっており、導波器は短くなっています。
つまり電波は自身の1/2波長より短い金属棒には吸い込まれ、長い金属棒では反射するということになります。
八木アンテナの各エレメントの長さの差はそれほど大きなものではなく、わずかな違いで電波を導いたり、反射したりします。
また、FMラジオをポータブルラジオで聴いていると、鉄筋コンクリート製の建物に入ると受信感度が低下することが知られています。
窓際よりも建物の中に入るほど受信感度は低下します。
ところがラジオを窓際においても大きな窓であればそれほど感度は落ちませんが、小さな窓では大きく感度が低下します。
FMラジオの周波数は80MHz近辺です。波長では3.7m程になります。波長の3.7mを超えるような大きな窓では感度は落ちにくく、これより小さな窓では感度が低下します。

『電磁波ノイズ対策 2』の続きです。
電子レンジの扉には直径数ミリの穴がたくさん空いているパンチングメタルという金属板が使用されています。
電子レンジは高出力の電磁波を食品に当てて加熱するのですが、その時の電磁波の周波数は2.45GHzです。
2.45GHzの波長を計算すると12cm程になります。
電磁波の性質上波長よりも大きな穴は通過しますが、波長より小さい穴は通過しにくくなります。
そこで波長よりも十分に小さい数ミリの穴をいくつか開けることで食品の状態を目で確認することはできても電磁波は漏洩しない構造になっています。
もし扉にパンチングメタルではなくガラスであったならば、覗き込むと強力な電磁波を浴び顔が発熱してしまいます。
シールドは完全な無垢の金属板である必要はなく、シールドしたい電波の波長によってはかなり大きな穴が開いていても十分にシールドとして動作します。
これらはノイズ対策のヒントになる現象です。電磁波ノイズ対策を行う場合に、対策をしたい電磁波の周波数を知ることはとても重要なことです。
また、電磁波ノイズはガスのように目に見えないような僅かな隙間から侵入してくると考えられている方も多いのではないでしょうか。
例えば、インバーターエアコンが発する電磁波によって音質が劣化していると仮定します。インバーターエアコンの発する周波数は5~120Hz程度ですので
その100倍の高調波を含んでいると考えた場合12KHzです。このとき波長は25000mとなりますので、
40cm程の筐体のオーディオコンポーネントに空中を伝わって入ってくることは考えられません。
おそらくインバーターエアコンのノイズは他のルート、例えば電源から混入している可能性が高くなります。
このようなときにオーディオコンポーネントのケースをアルミホイールでぐるぐる巻きにしても何の効果も得られません。
この場合は電源ノイズフィルターやフェライトコアーのようなものが効果的です。
しかし、電源関連のノイズ対策グッズであってもサージアブソーバーのようなものでは効果ありません。