オーディオのための電子回路入門 1
電子回路の設計は本当に難しいものです。私は37年電子回路の設計をしていますが、次々と新しい技術やパーツが発表されますので それらを取り入れていくだけでもたいへんです。 かつて、初心者にも分りやすく解説された『初歩のラジオ』や『ラジオの製作』という雑誌があり 私も中学生の頃愛読していましたが、現在は休刊となっています。 オーディオのための電子回路入門はオーディオ機器で使用される電子回路の基礎についてエンジニアの視点から初心者の方にも判りやすく解説しています。 ムジカではオーディオ全般に関する入門書として新・オーディオ入門を公開しています。 『オーディオのための電子回路入門』は『新・オーディオ入門』より少しだけ専門的な解説を目指したいと思います。
スピーカーシステムにおけるネットワーク回路は、
2WAYスピーカーや3WAYスピーカーのように周波数の帯域を分割して再生しているスピーカーシステムにおいて
周波数帯域を分割するための電子回路です。
2WAYスピーカーの場合、ウーハーには低域成分のみが、ツィーターには高域成分のみが印加するよう設計されます。
これは、ツィーターに低域成分が印加されると歪が増加し、さらに多くの低域成分が印加されるとツィーターが破壊されるしまうからです。
ウーハーに高域成分が印加されてもウーハーが破壊されることはありませんが、高域での歪は確実に増加します。
スピーカーユニットには、ユニットごとに仕様書によって定められた周波数帯域があり、
メーカー製のスピーカーシステムではその帯域を超えて再生するよう設計されることはまずありません。
また、ネットワーク回路に使用されるパーツは一般的な電子機器用のパーツとは異なる特別な仕様のものが使われていることも多々あります。
例えば、電解コンデンサーは一般的な家電製品においても電源回路等でもよく使用されていますが、
ネットワーク回路で使用される電解コンデンサーは『無極性』という特殊な電解コンデンサーです。
また、一般に電解コンデンサーの高域特性はあまり良くなく、高域でのインピーダンスが上昇しますが、
ネットワークに使用される電解コンデンサーは高域でもインピーダンスが低く抑えられている低インピーダンスタイプが使用されます。
そのためネットワーク回路ではたとえ同じ容量、同じ耐圧のコンデンサーであっても他のものにを変更することはあまりおすすめできません。
過去の名機に使用されていたコンデンサーだからという理由でコンデンサーを変更する方がありますが、
仕様を十分に吟味していないと改悪になる可能性が大です。
また、オーディオ用として販売されている高価なパーツがありますが、
高価なだけで効果が感じられないものも多く慎重に見極めが必要です。
むしろ、高温下でも安定して動作する自動車用や、長期に渡って高い信頼性が担保されている産業用等のパーツに有望なものがあります。
ウーハー用ネットワーク回路は
2WAYスピーカーや3WAYスピーカーのように周波数の帯域を分割して再生しているスピーカーシステムにおいて
ウーハーに低域成分のみを印加するフィルター回路です。
回路形式はLPF(ローパスフィルター)やHCF(ハイカットフィルター)といわれるものです。
使用する主なパーツは、コイル、コンデンサー、抵抗です。
ネットワーク回路での重要な指標はインピーダンスです。
インピーダンスとは音楽信号のような交流信号における抵抗値と考えてよいでしょう。
コイルは周波数が高くなるほどインピーダンスが上がる性質があり、
コンデンサーは周波数が高くなるほどインピーダンスが下がる性質があります。
ネットワーク回路はコイル、コンデンサー、抵抗を組み合わせることによって
特定の周波数(カットオフ周波数)より高い周波数成分をカットするフィルター回路を形成しています。
ネットワーク回路がどれだけ高効率に減衰させることができるかという指標に減衰カーブ特性があります。
dB/octの単位で現す指標で、数値が大きいほど急峻に高域が減衰していきます。
このとき注意しなくてはいけないのは、減衰カーブ特性の数値が大きいことが高音質だということではないということです。
一般的なネットワーク回路は-12dB/octが多いのですが、
スピーカーメーカーによっては-6dB/octを好んで使用する場合もあります。
ウーハー用ネットワーク回路において最も大きく音質に影響するパーツはコイルです。
コイルは銅線を螺旋状に巻いた電子部品です。
ウーハー用ネットワーク回路ではコイルは信号回路に直列に挿入され、巻かれている銅線の長さは数メーターにもなります。
オーディオマニアにはスピーカーケーブルにこだわり、ロスが少ない高級ケーブルをお使いの方も多いと思いますが、
コイルでの損失はスピーカーケーブルの何倍にも及ぶことがあります。
コイルは高価なパーツですので一部のスピーカーメーカーはコストダウンのために小型コイルを使用し、
ロスが増えることもやむなしと考えている節があります。
こういった場合はコイルを交換することで大幅なグレードアップも可能です。
ツィーター用ネットワーク回路は
2WAYスピーカーや3WAYスピーカーのように周波数の帯域を分割して再生しているスピーカーシステムにおいて
ツィーターに高域成分のみを印加するフィルター回路です。
回路形式はHPF(ハイパスフィルター)やLCF(ローカットフィルター)といわれるものです。
使用する主なパーツは、コイル、コンデンサー、抵抗です。
ネットワーク回路での重要な指標はインピーダンスです。
コイルは周波数が高くなるほどインピーダンスが上がる性質があり、
コンデンサーは周波数が高くなるほどインピーダンスが下がる性質があります。
ネットワーク回路はコイル、コンデンサー、抵抗を組み合わせることによって
特定の周波数(カットオフ周波数)より低い周波数成分をカットするフィルター回路を形成しています。
ツィーター用ネットワーク回路において最も大きく音質に影響するパーツはコンデンサーです。
コンデンサーは2枚の平行に置かれた金属板を電極とする電子部品です。
2枚の金属板が接触しないよう、その間に絶縁体を挟み込むのですが、
この絶縁体の種類によってフイルムコンデンサーやセラミックコンデンサーといったようにコンデンサーの種類が決定されます。
また、化学変化を利用した電解コンデンサーという種類もあります。
ネットワーク回路では高域特性が良く、大電流を流すことが可能なフイルムコンデンサーが最良とされています。
しかし、フイルムコンデンサーの容量は22μF程度までが現実的で
それ以上大きな容量のコンデンサーは高価でサイズが異常に大きくなり現実的ではありません。
それ以上の容量のコンデンサーが必要な場合は電解コンデンサーを使用するのが一般的ですが、
電解コンデンサーは高域特性がフイルムコンデンサーほどよくありません。
そこで、どうしても電解コンデンサーを使用しなくてはいけない場合は
電解コンデンサーと並列に高域特性が優れたフイルムコンデンサーを接続して使用するという方法があります。
また、コンデンサーは電子部品の中でも特に振動を嫌います。
特に大型のフイルムコンデンサーを使用するときは振動に影響されにくいコンデンサーを選択することが重要です。
ネットワーク回路はウーハー用やツィーター用以外にもスコーカー用やサブウーハー用、スーパーツィーター用があります。
●スコーカー用
3WAY時のスコーカー用ネットワークや4WAY時のミッドバス用ネットワークはカットオフ周波数が異なるだけで
基本的な回路は同じです。
スコーカーやミッドバスに特定の帯域の成分のみを印加するフィルター回路で、
回路形式はBPF(バンドパスフィルター)といわれるものです。
LPFとHPFがシリーズに入ったものということもできます。
この帯域は耳の感度が最も高い帯域です。
ヒトはこの帯域のノイズにはとてもナーバスですので、
できるだけ周囲のノイズに影響を受けなく歪の少ないパーツを使用することが重要です。
●サブウーハー用
サブウーハー用のネットワークは100Hz以下の低い周波数に作用するLPFです。
特別低い周波数を扱うためコイルやコンデンサーは大型のインダクタンスや容量が大きいものが必要です。
こういったパーツは高価で入手もしにくく、音質は良くありません。
そのためサブウーハーはネットワーク回路が使用されることは稀で
チャンネルデバイダーを使用したマルチアンプ方式が多く使用されます。
特別な理由がない限りネットワーク回路を使用して帯域を分割することはおすすめできません。
●スーパーツィーター用
スーパーツィーター用のネットワークは10KHz以上の高い周波数に作用するHPFです。
最近はハイレゾ音源も多くなってきていますが、サンプリング周波数192KHzのハイレゾ音源では
100KHzまでの信号が通過することになります。
この帯域になると音楽信号はラジオ帯域のような高周波信号に近い性質をもつようになります。
フイルムコンデンサーを使用せずにセラミックコンデンサーそ使用するといったような、
高周波に対応したパーツを使用した方が良い場合もあります。
ネットワーク回路を使用するにあたっていくつかの付随する電子回路が追加される場合があります。
この場合ネットワーク回路の一部として同じプリント基板に搭載されていることが多い回路です。
●アッテネーター回路
3WAYスピーカーシステムの場合、低域を再生するウーハー、中域を再生するスコーカー、高域を再生するツィーターがありますが、
これらはすべて同じ能率のユニットとは限りません。
このようなときはアッテネーター回路を使用して特定のユニットの音圧を下げるために使用します。
5w~50wのセメント抵抗や巻線抵抗が使用されます。
また、リスニングルームがフローリングではなくカーペットを使用している場合、高域がカーペットに必要以上に吸収されてしまい
バランスが取れないというようなこともあります。
このような場合を想定してツィーターの音量を可変できるようにしたアッテネーター回路もあります。
●インピーダンス補正回路
コーン型やドーム型はインダクタンス成分が多いスピーカーユニットです。
これらを使用する場合、周波数が高くなるほどインピーダンスが高くなる性質があります。
これは周波数が高くなるほど無負荷に近い状態となるということで
パワーアンプによっては発振を起こしたり、歪が多くなることがあります。
これを補正するのがインピーダンス補正回路です。
1マイクロファラッド以下のフイルムコンデンサーと数オームの抵抗が直列に接続されたものを
スピーカーユニットのプラスとマイナスの端子に接続します。
刺激的な音が減少し聴きやすくなる半面、迫力が減少する場合もあります。
●過大入力防止回路・過大入力インジケーター
業務用のスピーカーで使用される回路です。
PAの現場で過大入力を防止するために使用されます。
嘗ては電球が使用されていました。過大入力となると電球が点灯するのでこれを過大入力インジケーターとしている場合もあります。
ホームオーディオではほとんど使用されません。
真空管パワーアンプの出力回路には、『シングル』『プッシュプル』『OTL』の3種があります。
ここではシングルの特徴・メリット・デメリットを著します。
●特徴
シングルアンプは簡単な回路で動作しますが、大出力を得ることが難しい方式です。
ナス管やST管等の古典管に使用されることが多い形式で、古典管はシングルで使用するのが定石のような意見もありますが、
これは音質や特性が特別優れているためではなく、ナス管やST管の時代はスピーカーの能率が高かったため小出力のパワーアンプで十分でしたし、
真空管が高価だったために真空管の使用数をできるだけ少なくしたいという思惑からシングルが使用されていました。
●メリット
シングルアンプのメリットは部品点数が少なく、
一般的な自己バイアスであればとても安定した回路で、初めて真空管アンプを製作する方にもおすすめできる方式です。
古典管は貴重で高価な真空管ですが、出力回路のみということであれば真空管2本あればステレオアンプとして動作しますのでよく使用されています。
回路がシンプルなためパーツによる音質の劣化が少ないといわれていますが、実際には大きな違いは感じられません。
●デメリット
大出力を得ることは難しく、15w程度までの出力のアンプに適した回路です。
実用的な出力を考えると10w以下でしょう。
出力トランスはシングルアンプ専用トランスを使用する必要があります。このトランスにはプレート電流が流れますのでトランスのインダクタンス分が減少します。
そのため通常よりも大型のトランスを使用する必要があります。
動作は必ずA級となりますので消費電極、発熱が多くなります。
歪が多く、現代的な仕様のパワーアンプを製作するためには、更に出力電力を抑えて使用する必要があります。
プッシュプル回路は最もポピュラーな真空管パワーアンプの出力方式です。
量産を行っているアンプメーカーが生産する真空管アンプの多くはプッシュプルアンプです。
ここではプッシュプル回路の特徴・メリット・デメリットを著します。
●特徴
プッシュプルアンプは出力用真空管が2本または4本必要です。
波形の上側と下側を別々の真空管でドライブする方式で、効率よく大出力を得ることができますし、
波形の歪を打ち消しあうことで低歪のパワーアンプを製作することが可能です。
古典管の3極管から現代的なビーム管まで幅広く使用されている方式です。
●メリット
プッシュプルアンプはエネルギー効率が高い真空管出力回路です。
そのため大出力のパワーアンプであっても比較的低い発熱量ですし、
電源回路のコストも抑えることができます。
出力トランスもシングルアンプより小型にすることができます。
10w以上の出力を取り出す場合はプッシュプル回路が選択されることが多く
近代的なレギュレーター管を使用すれば100wを超えるような出力のパワーアンプも実現できます。
現代のスピーカーを再生する場合、20w以上の出力を持つパワーアンプが望ましいので
本格的な真空管アンプの多くはプッシュプルアンプです。
また、プッシュプルアンプは歪が少ないこともメリットにひとつです。
●デメリット
プッシュプルアンプは波形の上側と下側を別々の真空管で増幅しますので
ペアチューブと呼ばれる増幅率μが揃った真空管を使用するのが一般的です。
ペアチューブは何本かの真空管から特性の揃ったものを選別した真空管で割高になります。
ペアチューブを使用しない場合は調整が必要になる場合もあります。
回路が複雑でシングルアンプよりも多くの電子パーツが必要です。
OTLとは、アウトプット・トランス・レスを意味し、
真空管パワーアンプの出力回路に通常使用される出力トランスを使用しない方式です。
●特徴
出力トランスはバンドパスの周波数特性があります。低い周波数も高い周波数もロスが大きくなり出力が減少します。
また、出力トランスは大電力を取り出すと歪が増加します。
OTL回路はこのような出力トランスを使用しないことで広帯域と低歪を実現する方式です。
しかし、真空管はインピーダンスが高く古典管では数十キロオームになることもあります。
このような高インピーダンスの増幅回路に8オームの低インピーダンスのスピーカーを接続すると
出力電力を十分に確保することができません。
しかし、真空管としては新しい設計のレギュレーターチューブを使用することで百オーム程度までインピーダンスを下げることが可能です。
これらを4~8組並列に接続して使用することで8オームのスピーカーをダイレクトにドライブすることが可能になります。
●メリット
周波数特性が改善され、歪率も低く抑えることができます。
出力トランスによる位相のずれがないため
超高周波で発振する可能性も低くなります。
真空管アンプらしからぬクリアな音質で熱心なファンも。
●デメリット
回路は複雑で調整点も多く安定性は高くありません。
電源投入後真空管が定常状態になるまでは使用できません。
この時間は数分以上かかります。
また、使用する真空管はインピーダンスの低いレギュレーターチューブが使用されることが多く特殊です。
音楽を再生しているときに時間とともに出力に直流が重畳し、スピーカーを破損する場合もあります。
出力管は6~12本必要でそれらが全て特性の揃ったペアチューブである必要があります。
これだけのペアチューブを揃えることは困難で、そのコストは大きな負担になります。
負帰還回路とバイアス回路はパワーアンプのパフォーマンス大きく変化させる回路です。
●負帰還回路
負帰還はネガティブ・フィードバックを意味しNFB回路とも呼ばれます。
出力の一部を入力に戻すことで歪率を改善したり、ノイズを低減させたり、周波数特性を改善する回路です。
入力に戻す際に位相の関係が入力信号と逆相(負)になるため負帰還と呼ばれます。
帰還する割合を帰還量といいます。
帰還量は多い方が各種の静特性は良くなります。
そのため嘗ては帰還量を多くすることが一般的でしたが、
帰還量が多くなると躍動感が減少するというような意見もあり、近年では帰還量が減る方向です。
帰還量を更に減らしてゼロにした回路を無帰還アンプと言います。
無帰還アンプは一部のマニアから支持されています。
出力を戻すのですから外来ノイズも帰還されることになり音質が悪化するという考えです。
当社の見解では、十分に出力の大きいパワーアンプの場合は無帰還の良さがありますが、
小出力のパワーアンプでは少量の帰還をかけた方が良いと考えています。
●バイアス回路
バイアス回路とは出力真空管の動作状態を決定する回路です。
バイアスが深い(バイアス電圧が高い)とプレート電流は減りB級アンプに近い動作となります。
バイアスが浅い(バイアス電圧が低い)とプレート電流は増えA級アンプに近い動作となります。
通常はA級とB級の間で使用することが多いのですが、この場合AB級と呼びます。
A級アンプはAB級アンプよりも高音質と言われることもありますが、
それはパワーアンプの仕様のひとつに過ぎず、他の要素の違いも影響しますので
必ずしも正しいとは言えません。
また、バイアス回路には固定バイアス回路と自己バイアス回路があります。
多くの市販アンプは自己バイアス回路です。無調整で動作する安定した回路です。
固定バイアス回路は僅かにパワーが増加しますが、常に調整が必要で、調整が大幅に狂うとアンプが故障することがあります。
一般的な真空管パワーアンプは『初段』『ドライバー段』『出力回路』『電源回路』で構成されています。
これまでに出力回路は解説してきましたので、それ以外の回路について解説したいと思います。
●初段
入力に最も近い回路です。
ここではローノイズ化のためにできるだけ大きなゲインを確保し、適正なNFBがかかるような回路が用いられます。
使用する真空管はμが高いものが使われることが多く、
ミニチュア管であれば12X7、GT管であれば6SL7GTあたりがよく使用されます。
プッシュプルアンプの場合は位相反転回路が必要になりますが、
本格的な真空管アンプでは初段に位相反転回路を付随させることがあります。
●ドライバー段
出力回路に適切な信号電圧にするために音楽信号の電圧を上げることを目的としています。
出力回路を十分にドライブできるように低内部抵抗の真空管が使用されます。
大出力の真空管アンプでは、ドライバー段に小型の出力管が用いられることもあります。
出力回路にビーム管や5極管を使用する場合はそれほど高い電圧は必要ありませんので
ドライバー段にPK分割回路のような位相反転回路を組み込むこともあります。
●電源回路
最初期の真空管アンプはA電池と呼ばれるフィラメント用低圧電池、
B電池と呼ばれるプレート用高電圧電池、C電池と呼ばれるバイアス回路用電池の3種の電池を使用していました。
現在でもプレート用の高圧電源はB電源と呼ばれています。
B電源はリップルが少なく安定していなくてなりません。近年では高圧のスイッチング電源が使用されることも多くなっています。
フィラメントはフォノアンプ等のノイズが問題になる場合を除いて交流点火されます。電圧は6.3vまたは12.6vで点火するのが標準です。
バイアス回路は、自己バイアスが多いので専用の電源回路を用いることは稀です。
半導体パワーアンプの出力素子には、『トランジスター』『FET』『IGBT』の3種があります。
ここではそれぞれの特徴・メリット・デメリットを著します。
●トランジスター
最も古くから使用されている半導体です。
嘗てはゲルマニュームトランジスターが使用されていましたが、現在ではシリコントランジスターが使用されます。
現在でもゲルマニュームトランジスターで自作される方もありますが、
ゲルマニュームトランジスターは過電流や発熱に弱く、ちょっとしたことですぐに故障してしまいます。
シリコントランジスターは現在でも第一線の増幅素子です。
製造されているトランジスター類の大半はシリコントランジスターです。
音質はパワフルだといわれていますが、前段回路によってアレンジが可能です。
●FET
日本語では電界効果トランジスターと言われています。1970年代に画期的なトランジスターとしてデビューしました。
入力インピーダンスが高く、熱に対しもコントロールしやすいため、設計しやすい増幅素子です。
特性が真空管に似ていることから真空管アンプのファンにも受け入れやすい素子と考えれれていますが
真空管アンプの音質を左右する大半は出力トランスによるものですので
特性が似ていても音質は全く異なります。
再現性が高いので自作派に人気があります。
素子としての価格はトランジスターより割高です。
●IGBT
FETの入力とトランジスターの出力構造をもった素子です。歴史は浅く量産が始まったのは1980年代以降です。
FETとトランジスターの良い部分を併せ持った素子ですが、
生産数が少なく、市場にはあまり出回りません。
そのため自作での製作例もほとんどありませんが、国内外のメーカー製アンプには使用されています。
ICはインテグレーテッド・サーキットの略で集積回路を意味します。
ICは1970年代、機器の小型化のために開発された技術で、デスクリート(個々のパーツを使用した製作法)で組んだ回路を
ICに置き換えることをIC化と言います。
IC化された回路はデスクリートで組んだ回路とと同じ内容のパーツを使用してします。回路構成が特殊ということもありません。
IC化は小型になるだけではなく、多くのメリットがあります。
まずは、温度に対する安定性の向上です。
回路が小さくなることで、電源を投入してから温度が定常状態になるまでの時間が短くなり
いわゆる『目覚めの早いアンプ』になります。
デスクリートでは1時間近くもかかって安定した音質になっていたものが、ICでは数分で安定するようになります。
また、外部の温度変化に対しても短時間で安定しますので、パワーアンプのように
ICが使用されている場所以外の回路(電源回路等)での温度変化が大きい機器の場合に有利です。
さらに、電子回路部分が小さくなるため外部から電波ノイズを受ける面積も減少し、雑音が少ない高音質の増幅回路になります。
メリットが多いIC化ですが、僅かながらデメリットもあります。
故障時にパーツを交換するときはICを使用していると、ICまるごと交換することになるので修理代がかさむ可能性があります。
もっとも、最近の家電メーカーが行う修理はユニット交換や基板交換が多くなっていますので大きな問題ではないかもしれません。
最大のデメリットは、未だICは音質が悪いと思われている方が多いということでしょう。
1970~80年代に製造された未熟なICを使用した経験からそう思われるのでしょうが
現代の技術で製造されたICはデスクリートでは実現できないような良好な特性を有しています。
また、パソコンやCDといった音源機器が全てICを使用して動作している中で
パワーアンプのIC化だけを問題視するのはナンセンスです。
デジタルアンプは数値を2進数化し演算を行うことで動作する増幅回路です。
そこにはPWMという技術が用いられています。日本語ではパルス幅変調と言われています。
その動作原理は単純です。
例えば、100wの電球を半分の明るさにするとします。
明るさは消費電力に比例しますので電球が50w消費するようにすればよいのですが、
電力は電圧の2乗に比例しますので100vの電圧を71vに変更することで実現することができます。
これはアナログ的な手法で、100v-71v=29vはどうなってしまうかというと、ロスになってしまうのです。
明るさを制御する別の方法として時間幅を変更する方法があります。
100wの電球を0.01秒間点灯、0.01秒間消灯・・・を繰り返せばヒトの目には半分の明るさになったように見えます。
デジタルアンプもヒトの特性をうまく使うことで増幅をしています。
デジタルアンプのメリットは高効率化です。
上記のようにデジタルアンプは、音が『出ている』または『出ていない』を瞬時に繰り返しているだけですので
中間の電圧を作り出す必要がなく超低損失です。
実際には極僅かのスイッチング素子として使用している半導体ののロスが発生しますが、
一般的なアナログアンプが効率50%以下なのに対して、デジタルアンプは80%以上の高効率となります。
電力のロスが減るのですから発熱も減ることになり電源部は低容量化が可能で、放熱器が小型化され、ケースも小さくすることができます。
デメリットは2つあります。
ひとつは出力回路です。必ずスピーカーに直列にコイルを入れる必要があります。コイルは細い電線を螺旋状に巻いたものです。
オーディオファンはスピーカーケーブルにも気を使いますが、コイルを入れるということは細くて長いスピーカーケーブルを追加したのと同じです。
もうひとつのデメリットはノイズです。
デジタルアンプはアナログアンプに比べてノイズが多くなってしまうため何らかの対策が必要です。
musicaのプリメインアンプforest(フォレスト)はこれらの問題を解決した最新のデジタルアンプです。
最近では超安価な中国製デジタルアンプが多く出回っています。
また、100万円を超える高価な海外製アンプもたくさんのモデルが発売されています。
YouTubeを見ているとこれらのアンプを比較して、たいした音質の違いはない!・・・といった動画もあるようですが、
これは使用環境や試聴条件によっては十分有り得ることですが
鵜呑みにするのは危険です。
こういった比較では小型のブックシェルフスピーカーが使用されることが多いようですが、
超低域を十分に再生することができない小型スピーカーでは
超低域の信号が入力すると歪の原因になることがあります。
そのため低域が『軽い』中国製アンプの方がよく聴こえたりすることはあり得る現象なのです。
海外製の高級アンプは大型でパーツや筐体に物量を投入したモデルが多いと思います。
それに対して安価なデジタルアンプは、あの手この手の最新技術を駆使してうまく音を聴かせるツボを押さえているように感じます。
大排気量で高トルクのアメ車と、ターボを駆使し最新のインジェクションを搭載した日本車のような違いでしょうか。
これらは『馬力』や『ゼロヨン』といった指標で現されるものではなく『フィーリング』の部分が大きいと思います。
また、物量を投入した高級アンプか、安価なデジタルアンプかといった両極端の議論ではなく
実は中間点にもっとも優れたバランスのポイントが存在するのです。
現在人気の車を思い出していただくと、
ソコソコの排気量に、最新のハイブリッドシステムを搭載した車が大半であることに気がつきます。
現在のパワーアンプに使用されている電子回路の原型は、実は60年以上前から大きな変化はありません。
基本となる電子回路に、開発されたばかりの最新技術を投入することを繰り返して、オーディオアンプの音質は少しづつ前進してきました。
ムジカでは『ベースとなる技術』と『最新技術』のバランスをとっていくことこそが未来の高音質アンプを作り出すと考えています。
出力段の電源回路はアナログ電源とスイッチング電源があります。
●アナログ電源
大容量のトランス、整流器、コンデンサーで構成されています。
簡単な回路で、少ない部品で組み上げることができます。
整流器が電磁波ノイズを発生しますが、比較的対策しやすいノイズです。
デメリットは、電圧を安定させるためには実際に消費するよりも大容量のトランスとコンデンサーを使用しなければなりません。
大型、高価で重量も重くなります。
嘗て、パワーアンプは重い方が良いと言われていた時代がありました。
これは十分に余裕のある電源を搭載しているからというのが理由です。
また、トランスから電磁波ノイズが発生しますが、対策が難しいノイズです。
●スイッチング電源
最近の主流です。今後もさらに増えていくと思います。トランスを使用することは同じですが、使用方法が合理的です。
トランスは周波数に比例して電力を取り出すことができるという特徴があります。
例えば、ヒトの拳位の大きさのトランスでは、50/60Hzの商用電源(壁のコンセント)では20~30wを取り出すのがせいいっぱいです。
ところが、スイッチング電源では商用電源を数十キロヘルツに変換し、その後トランスを使用します。
周波数は1000倍程になり理論値では20000~30000wの電力を取り出すことができるようになります。
現実にスイッチング電源に使用されいるトランスは数センチ程度のもので、100wを超える電力を取り出すことが可能です。
小型で安価、軽量の電源回路を構成することが可能です。
また、スイッチング電源はその回路構成上、安定化が容易です。安定化電源とは入出力の負荷変動に影響されない電源を意味します。
商用電源が100vから95vに低下しても出力電圧は変わりません。
パワーアンプを大音量で再生し大電力を消費しても出力電圧は変わりません。これは増幅回路の高音質化に貢献します。
高周波ノイズが多いというのはデメリットですが、近年ノイズ対策技術が進歩しノイズが激減しています。
パワーアンプには使い勝手を良くするためのいくつかのアクセサリー回路が付随する場合があります。
●バランス入力回路
一般的なホームオーディオでは音楽信号はRCA端子からピンケーブルによって供給されます。
業務用音響機器とパワーアンプを接続する場合や、プリアンプとパワーアンプとの間に距離がある場合は
パランスケーブルを使用することがあります。
この場合、バランス伝送をアンバランス伝送に変換する回路が必要です。
古くは入力トランスが使用されましたが、現在ではオペアンプを使用した差動増幅回路を使用するのが一般的です。
●アッテネーター回路
パワーアンプの入力電圧はスピーカーの能率やプリアンプのゲインによって微調整が必要な場合があります。
また、ノイズ対策の観点からプリアンプの出力電圧を高めにし、パワーアンプのアッテネーターを使って絞り込む場合もあります。
アッテネーター回路はボリューム回路と同じ構成ですが、日常的に音量を調整するためのものではありません。
そのためパワーアンプのアッテネーター回路に使用する可変抵抗器はプリアンプのボリュームぼどの耐久性はない場合があります。
●ステレオ/モノラル切替回路
ステレオパワーアンプには左右の2チャンネル分の増幅回路が搭載されています。
これを1チャンネルとして動作させることで出力の増大を可能にするのがステレオ/モノラル切替回路です。
ステレオ時100w+100wの出力を持つパワーアンプを
スイッチを切り替えることで200wまたはそれ以上の出力の1チャンネルのパワーアンプとして動作させるものです。
その多くはBTL接続という出力段を直列に接続する手法がとられます。
この場合、ステレオ再生ではパワーアンプは2台必要になりますが
大出力パワーアンプで低歪化を狙ったり、左右のスピーカーの傍にパワーアンプを設置することで
スピーカーケーブルを最短化させることができます。